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小1女児が「頭蓋骨」を骨折、ボールを蹴った生徒の親は「ゴメン」で済むのか?
画像はイメージです(topic_kong / PIXTA)

小1女児が「頭蓋骨」を骨折、ボールを蹴った生徒の親は「ゴメン」で済むのか?

子どもにとって、友だちとのケンカやトラブルも成長過程における大事な経験の一つですが、時には「子ども同士の問題」ではすまされず、親の介入が必要となる場合もあります。

子どもが上級生の蹴ったボールで転んで大ケガをした——。ある保護者からそんな相談が弁護士ドットコムに寄せられています。

相談者の子どもは、小学1年生の女の子。学校内の遊んではいけない場所で、上級生が蹴ったボールで転び、頭蓋骨骨折などの大ケガを負いました。頭部は30針も縫い、10日間入院するほどだったそうです。

ところが、ボール遊びをしていた上級生3人の保護者は「すみませんでした」と言っただけ。相談者は、そんな相手側の態度に「誠意が見られない」と不満を感じているようです。

入院するほどの大ケガともなれば、治療費などもかさみます。このようなケースで、相手側に責任を取ってもらいたいと思った場合、保護者はどう対応したら良いのでしょうか。

子どもの問題にくわしい高島惇弁護士に聞きました。

●まずは陳述書の作成と現場撮影を

——ケガをした子の保護者はまず何をすべきでしょうか。

子ども同士のケンカや不注意でケガを負った場合、まずは事故状況の確認が重要になります。

ケンカや不注意によって事故が生じた場合、その具体的な経緯について当事者間の認識に大きなズレが生じているケースは多いものです。一方、とりわけ子どもの場合、時間の経過によって、事故当時の状況を急速に忘れてしまう傾向があります。

そのため、子どもの記憶が鮮明なうちに、事故の具体的状況を書面(陳述書)にまとめておくと良いです。あわせて、当事者間で事実関係を確認し、そのやり取りを録音するという方法も有効です。

書面を作成した際には、訴訟に備えて、その作成日を立証できるよう、公証役場で「確定日付」を取得することをおすすめします。

——書面作成のほか、やっておくべきことはありますか。

早めに事故現場を訪問したうえで、写真撮影することが重要になります。

事故現場に血痕などが残っている場合や、現場付近に設置された遊具が原因で事故が発生した場合には、時間の経過によって、事故当時の状況を確認できなくなる可能性があるためです。

●子どもの年齢などで請求先が変わることも

——損害賠償はどのように請求することになりますか。

基本的には「治療費」や「慰謝料」といった損害を賠償するよう請求していくことになりますが、誰に対して請求するかについては、加害者である子どもの年齢を踏まえて検討する必要があります。

民法では「その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う」(714条1項)と定められています。

おおむね「12歳未満の子ども」については、「自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかった」(民法712条)として、損害賠償責任が発生しない傾向があります。

そのため、仮に相手が責任無能力者である場合には、その監督義務者である親は、子どもに対する監督義務を怠らなかったことを証明しない限り、子どもの代わりに損害を賠償しなければなりません。

——12歳以上の子どもの場合はどうでしょうか。

相手がおおむね12歳以上で、責任能力を有する場合には、当事者である子どもに対してのみ損害賠償を請求することができます。

ただし、この場合であっても、親の監督義務違反と子どもの行為によって生じた結果との間に「相当因果関係」がある事実を証明した場合には、親自身に対して別途、損害賠償を請求する余地はあります。

●学校側が責任を負う場合も

——学校側の責任はどうなるのでしょうか。あくまで家庭間での問題なのでしょうか。

そうとは限りません。トラブルが学校や幼稚園といった施設内で発生した場合には、仮に子どもが責任無能力者であっても、相手の親に対して損害賠償を請求できない可能性があります。

——なぜでしょうか。

学校や幼稚園は、授業中や保育中において、親に代わって子どもを監督する義務を負っています。監督下にいる子どもがケガを負わせた場合、原則として、子どもに代わって損害を賠償しなければなりません(民法714条2項)。

そして、本来の監督義務者である親は、直接的な監視下にない子どもについては、監視下にある子どもに比べて指導監督できる範囲に限界があり、その限度で監督義務を尽くすことで例外的に損害賠償責任を免れるためです。

●「親が損害賠償責任を負うかどうかの判断は非常に難しい」

——類似のケースで参考になる判例はありますか。

実際に上記のような点が争われた最高裁判例(平成27年4月9日)があります。

11歳の男子児童が、放課後にサッカーボールに向けてフリーキックの練習をしていたところ、誤ってボールがゴール上を越えて道路上に出てしまい、路上をバイクで走行していた男性がボールを避けようとして転倒し、その際のケガが原因で最終的に死亡したという事案です。

裁判所は、「民法714条1項の監督義務者としての義務を怠らなかった」として、原審を破棄して保護者の監督義務違反を否定しました。

——何がポイントなのでしょうか。

この判例については、現在に至るまで、さまざまな解説がなされていますが、(1)子どもが親権者の直接的な監視下におらず、(2)通常は人身に危険が及ぶものとは見られない行為によって、たまたま人身に損害を生じさせた場合には、原則として損害賠償責任を免れる、という2点が判例の文言に忠実な理解だと思います。

この理解によれば、子どもが親の直接的な監視下にいる場合には、親は子どもに対する包括的な監督義務を負っている以上、子の過失によって第三者に損害が生じた場合であっても損害賠償責任を負う可能性はあります。

また、子どもがケンカや問題行動によって相手にケガを負わせた場合には、日ごろのしつけを通じて指導監督することが可能であると理解されます。そこで、直接的な監視下かどうかを問わず、親は損害賠償責任を免れないという結論になります。

——今回の相談ケースに当てはめると、どういった結論になるのでしょうか。

相談ケースは、ボール蹴りが禁止されている場所でボールを蹴ってケガを負わせたという事案です。

加害者が周囲の児童へ当たる危険を予見していた場合には、問題行動である以上、「通常は人身に危険が及ぶものとは見られない行為」に該当しないとして、親の監督責任が認められる可能性が高いと思います。

——禁止されている行為をしたという点が大きそうですね。

ただし、親が損害賠償責任を負うかどうかの判断は、非常に難しい問題を含んでおり、今後の議論次第では判断が変化してくる可能性もあります。

とりわけ、学校内での事故の場合、親ではなく学校へ責任を追及すべきケースもありますので、同様の事故に巻き込まれた際は、証拠が散逸する前に弁護士へ相談されることをおすすめします。

プロフィール

高島 惇
高島 惇(たかしま あつし)弁護士 法律事務所アルシエン
学校案件や児童相談所案件といった、子どもの権利を巡る紛争について全国的に対応しており、メディアや講演などを通じて学校などが抱えている問題点を周知する活動も行っている。近著として、「いじめ事件の弁護士実務―弁護活動で外せないポイントと留意点」(第一法規)。

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