散歩中の犬がおしっこをしている姿を街中で見かけることがある。生理現象なので仕方ないとわかっていても、自宅に向けておしっこをかけられて「問題なし」という人はそういないだろう。
弁護士ドットコムにも、「たびたび自宅の塀に犬のおしっこをかけられていて、そこだけ変色してしまった」という相談が寄せられている。
相談者の自宅の塀はもう何年も、おしっこをかけられ続けており、塀のタイルが真っ白に変色してしまったという。「見つけ次第警察に通報します」と書いた張り紙やダミーの防犯カメラを設置してもお構いなし。犬が嫌がるスプレーを噴射しても効果なかったようだ。
早朝から夜までカメラ片手になるべく見張ってもいるが成果は出ないようで、「精神的にも肉体的にも限界」という相談者。おしっこをかけている犬やその飼い主がわからないことなどから、役所や警察に相談しても難色を示すという。
相談者としては本物の防犯カメラの設置も検討しており、飼い主が判明したら、塀の修繕費用などを請求したいようだ。このような場合、飼い主の責任はどうなるのだろうか。動物法・ペット法にくわしい鈴木智洋弁護士に聞いた。
●「生理現象なので仕方ない」では済まない
——犬のおしっこで被害を生じさせた場合、飼い主はどんな責任を負いますか。
動物の飼い主(占有者)は、その動物が他人に損害を与えた場合、原則として賠償責任を負うとされています(民法718条1項)。
ここでいう「他人に損害を与えた」とは、他人の生命身体に加えた損害だけでなく、物を壊したり、他人の所有物などに加えた損害をも含むと考えられています。同じような考え方に立つ裁判例(大審院大正10年12月15日判決)もありますので、今回のケースでも、飼い主はその責任を負う可能性があります。
——犬が我慢しきれず1回だけおしっこをかけてしまった場合はどうでしょうか。
1回だけおしっこをかけたにすぎない場合であれば、それだけでタイルが変色してしまうことは多くないと思います。変色していないなど、損害が発生していないのであれば、受忍限度(社会生活を営む上で我慢すべき限度)の範囲内でしょうから、飼い主の責任も発生しません。
——散歩中に犬がおしっこをしてしまうのは、生理現象として仕方ない面もあるかと思いますが、この点はどう考慮されるのでしょうか。
監督管理の点で、飼い主に過失がなかったという事情として考慮される可能性はあります。しかし、動物の飼い主の責任が、故意や過失がないことを理由に免責されることは、実際上あまりないと思います。
——街中で電柱におしっこをかけている犬を見かけることはありますが、これは問題ないのでしょうか。
電柱についても、電力会社等が所有しているものですので、その所有物を壊したり、傷つけたりすれば、損害が発生した場合には、責任が生じる可能性はあると思います。
●できれば散歩前におしっこを済ませておきたい
——相談者としては、飼い主が特定できたら、塀の修繕費用などを請求したいようです。
飼い主が特定されただけでは足りません。なぜなら、ほかの犬の行為によって発生した可能性も否定し切れないからです。
ただし、設置した防犯カメラに同じ犬だけが何度もおしっこをかける映像が残っているなどの場合であれば、請求が認められる可能性はあります。
——犬のおしっこについて、飼い主はどう対処すべきでしょうか。
まずは、できる限り自宅でおしっこを十分済ませてから散歩に出かけるようにするべきでしょう。
とはいえ犬ですから、言って聞かせるにも限界があります。もし、散歩中におしっこをするのであれば、人の財産を壊したり、傷つけたりするような場所は避けましょう。
また、注意喚起的に「おしっこ禁止」と書かれているところにかけてしまうと悪質性が高いものとみられやすくなりますので、そういう場所にはおしっこをかけないようにするのが無難です。
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