「ウーバーイーツをやろうにも、我々のような小規模の飲食店では利益が出づらい。だから自分たちで出前を始めたんです」
東京と埼玉の境にある「東京都北区赤羽」。飲み屋街として知られるこの街も、新型コロナウイルスによって大きな影響を受けた。
そこで今年4月、居酒屋を経営する篠原裕明さん(52)は周りの店舗に声をかけ、「赤羽出前団」を結成。料理のデリバリーを始めた。取り組みは、飲食店の生き残り戦略として、テレビ東京系「ワールドビジネスサテライト」など複数のメディアで取り上げられた。
しかし、最近になって赤羽住民は出前団を利用できなくなってしまった。新型コロナの感染再拡大で需要増が見込まれるのにだ。
いったいなぜか。理由は、篠原さんが委託元から店を取り上げられてしまったからだ。鍵を変えられたので、中には入れない。店の電話番号も不通になり、共通の番号だった赤羽出前団にもつながらなくなってしまった。
篠原さんは委託元のX社を訴える準備をしており、赤羽の飲食店関係者の関心を集めている。
赤羽出前団には同店も含めて13店舗が登録していた(2020年10月28日、編集部撮影)
●店先に「勝手に鍵を変えられた」と張り紙
篠原さんが経営していた「やきとん大王 赤羽店」は、飲食店がひしめく赤羽一番街にある。今年10月26日の営業開始前、この店から、荷物が次々と運び出され、店先に積み上げられていった。X社の仕業だった。
スタッフから連絡を受けた篠原さんは店舗に駆け付けた。X社側と言い合いになったが決着はつかず、営業を断念。以来、鍵が変わっているので中に入れないでいる。
店のシャッターには、「勝手に鍵を変えられてしまったため、臨時休業とさせていただきます」との張り紙をした。ゴタゴタの中、予約客の電話番号も確認できなくなり、キャンセルの連絡ができなかったという。
店先の張り紙(編集部撮影)
11月下旬になって店は営業を再開した。しかし、篠原さんや元々のスタッフの姿はない。X社が別のスタッフに営業させている状態だ。
●毎月150万円ほどを支払う
なぜこんな事態になったのだろうか。
篠原さんはもともと、X社の社員として、この店の店長をしていた。しかし、営業時間は12時~24時。スタッフも少ないから、店長の労働時間は長い。労働基準監督署の指導を受けることもあったという。
その後、営業時間は短縮され、しばらくするとX社から、社員ではなく業務委託として店を経営することを持ちかけられた。そして、2019年7月に独立。篠原さんは労働者ではなく、経営者という立場になった。
独立に際しては、委託料など、毎月150万円ほど(家賃除く)をX社に支払う契約になっていた。ところが、独立から1年たった2020年7月、契約見直しのタイミングで、X社に金額の根拠が不透明な部分をただすと、今回のように鍵をつけ変えられ、営業できなくされてしまったという。
7月にも同様のやりとりがあった(2020年7月9日、編集部撮影/画像は一部加工)
このときは、数日で再開できたが、以来、会社とはほぼ没交渉。契約の見直しもできていないとして、委託料などの支払いは控えてきた。
すると10月、冒頭のように事前通告なしで締め出しを食らった。今回は、X社が別スタッフで営業を再開しているため、戻る場所もない。
篠原さん側は、法的措置をとらずに鍵をつけ変え、追い出したのは違法な「自力救済」に当たるなどとして、営業ができなかったことによる損害賠償などを求めて、裁判を起こすという。
「今までのスタッフと、赤羽の違う場所で新しく店を開く予定もあります」(篠原さん)
●X社側「契約はとっくに切れている」
X社側は、鍵を変えたことなどについて「契約は6月30日で終わっており、自力救済には当たらない」と説明する。
同社が7月以降の賃料も支払い続けており、損害が出ているという。また、もし仮に契約が続いていたとしても、篠原さん側に同社に対する1000万円を超える未払い金があるとする。
今後は双方が裁判で主張を戦わせることになる。
【2020年12月29日:修正・追記・補足】
(1)X社について、「“親会社”」としていた部分を改めました。
(2)X社のコメントを追記しました。
(3)同日時点で、双方ともにすでに提訴済み。