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「鬼滅の刃」伊之助コスにマタギがNO! 「猪マスク、山ではやめて。撃ってしまう」
画像はイメージです(コミックスは記者の私物)

「鬼滅の刃」伊之助コスにマタギがNO! 「猪マスク、山ではやめて。撃ってしまう」

山の立ち入り禁止区域に無許可で「猪のお面」をつけたコスプレイヤーが現れたとされるツイッターの投稿が10月27日現在、合計約2万8000件の「いいね」「リツイート」がされているほどネットで話題になっている。

その特徴から、日本映画史に残るヒットを記録している「鬼滅の刃」のキャラクター「嘴平伊之助(はしびらいのすけ)」のコスプレではないかとみられている。

だが、投稿者は狩猟期間中の山では「流れ弾に当たる可能性も0ではない」と危険性を指摘する。

11月にも猪猟が解禁される秋田のマタギの頭領も「猪の格好をするだなんて危険きわまりない。やめてほしい」と訴えた。(編集部・塚田賢慎)

●「無許可で山に入ってイノシシのお面?つけて撮影を」

話題になっているのは、「狩猟クラスタで話題になってけど、コスプレイヤーが猟期の山に無許可で入って立入禁止区域で猪のお面?つけて撮影したりしてるとのこと」という10月23日の投稿だ。

投稿者は「誤射されたり、狙ってなくても流れ弾に当たる可能性が0じゃないので止めて…許可取ってくれれば、その日は狩猟禁止とかできるから…入林許可取って…」とコスプレイヤーに呼びかけている。

そのうえで、「基本的に山は私有地か公有地で勝手にはいったら不法侵入」と警鐘を鳴らした。

コスプレイヤーが山に入って撮影する際の注意点を、山の問題に詳しい溝手康史弁護士に聞いた。

●コスプレイヤーが山で注意すべきは

ーー山に入って撮影をしたいと考えるコスプレイヤーが法的に注意すべきことはなんでしょうか

山に入るには、私有地、公有地を問わず、土地の所有者、管理者の承諾が必要だというのが建前ですが、黙認されていることが多く、通常は登山やレジャーのために山に入っても法的な問題は生じません。コスプレイヤーも同じです。

ただし、土地所有者がロープなどを張って立入禁止の範囲を明示すれば、そこに進入すれば軽犯罪法違反になります。

一方、猟をする人は、猟を行うことを明示して人が近づかないようにする必要があります。しかし、猟をする人が猟のために立入禁止の表示をしても、土地所有者でなければ、その表示に法的な効力はありません。

狩猟が行われる山では、狩猟者とレジャーをする人の双方が注意をする必要がありますが、誤射事故を防ぐための基本的な注意義務は狩猟者が負います。誤射事故が起きれば、狩猟者に刑事責任や損害賠償責任が生じます。

しかし、被害者が動物のようなコスプレをして動物と誤信させやすい状況があれば、被害者にも落ち度があったとして損害賠償額が減額されるでしょう。

ーーただ、登山をするだけで狩猟者に撃たれるおそれはあるでしょうか

狩猟の場所は、人が通行する可能性のない場所を選ぶので、登山者が間違って撃たれることは滅多にありません。狩猟者は人の存在にかなり神経を使います。登山者が猟の場所に遭遇することは滅多にありません。

また、猟をしていれば銃声や猟犬の吠える声が聞こえるので、何となく雰囲気で猟が行われていることがわかります。しかし、過去に、ハイカーがまちがって猟銃で撃たれた事故がないわけではありません。

滅多に人が入らないような山に進入する人は、万一の場合に備えて音を出すとか(熊よけにもなります)、目立つ色の服を着るなどして人がいることを知らせる必要があります。

ーーほかに注意すべきことは

通常は、動物と登山者では動き方が異なるので、誤射は起きにくいと思われます。誤射事故の多くは、猟仲間の間での事故です。狩猟が行われている山で動物のコスプレをして動物のような動き方をすれば、誤射事故が起きる確率が高くなります。

問題となっている撮影目的のコスプレイヤーは、おそらく林道や登山道付近での行動だと思われ、そのような場所では基本的には猟をしないので誤射事故が起きる可能性は低いと思います。低い山で林道や登山道から離れた場所を歩く登山者(滅多にいませんが)、山菜採りや茸採りをする人、山仕事をする人などは注意が必要でしょう。

山という自然資源は多様な利害関係者(国民)が利用し、土地所有者を除けば、その間に優劣の関係はないので、狩猟を行う山域とレジャーで使う山域の棲み分けが必要です。撮影目的のコスプレイヤーも、多様な利害関係者の一人です。

●秋田県のマタギは「イノシシの格好するのは大変危険」

一方、猟をする側からは「動物の格好で山に入るのはやめてほしい」という意見が出た。

中学生でマタギになった「打当マタギ」のシカリ(=頭領)で、北秋田市猟友会の阿仁地区猟友会副会長を務める鈴木英雄さん(73)は「この地区でも、11月からツキノワグマやイノシシの猟が始まります。猟をする側からすると、大変に危険なのです」と話す。

「昔は、黒でも地味な色でも、好きな色の服装で山に入っていました。しかし、そんな格好で柴の中を歩けば、動物か人間かわからず、誤って撃って死亡する事故も起きていたんです。そのため、熊の駆除をするときなどは、蛍光色の帽子とベストを着用することが全国的に広がりました。それなのに、猪の面をつけるだなんて危険きわまりない」

中学生の頃から銃をかついで地元の森吉山で猟をしてきた超ベテランの鈴木さんだが、「銃の引き金を引く前は、矢先(銃の先)を確認します。しかし、動転していると、誤まって撃ってしまうこともあるでしょう」と語る。

また、山奥であれば、登山道であっても「猟場」に含まれていることがあるという。「狩猟が禁じられている公園などであればよいが、そういう格好で山に入るのはやめてほしい」

狩猟免許を取得し、猟師のなりてが減っていると鈴木さんは言う。

「間違って撃ったら、間違いなく免許は取り上げられてしまう。猪の格好をして撃たれる人も、撃ってしまう猟師にも、どちらにも良いことはない」

●コスプレイヤーは生殺与奪の権を他人に握らせないで

読売新聞オンライン(10月26日)によると、山梨県南アルプス市の山林で、鹿の駆除をしていた猟友会の男性が、別の会員が撃った弾にあたって、怪我をする事案が起きた。「鹿だと思って撃ったら人だった」と話しており、誤射の可能性がある。

人間のままでも動物と間違われてしまうのであれば、わざわざ猪の格好をしていれば、危険性は高いに違いないだろう。

鉄砲の前では「攻撃されてる!」と気づいたときにはもう遅い。生殺与奪の権を他人に握らせることなく、コスプレは安全な場所で楽しんでほしい。

プロフィール

溝手 康史
溝手 康史(みぞて やすふみ)弁護士 みぞて法律事務所
弁護士。日本山岳サーチ・アンド・レスキュー研究機構、国立登山研修所専門調査委員会、日本山岳文化学会、日本ヒマラヤ協会等に所属。著書に「山岳事故の法的責任(ブイツーソリューション)」等。アクタシ峰(7016m)等に登頂。

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