自動車の中に閉じ込められた1歳男児を救出するため、男児の祖母が近くにあったくわで窓ガラスを割ったという富山県高岡市のニュースが話題になっている。
地元の北日本新聞(8月20日)によると、騒ぎは保育園の駐車場で19日午後5時前に起きた。
祖母が男児を後部座席に座らせ、ドアを閉めて運転席に乗り込もうとしたところ、男児が鍵のボタンでロックをかけてしまったのだという。男児がさわりたいとせがんだため、祖母が鍵を渡していた。
もとはといえば、祖母のミスとは言えるが、ミスのない育児などありえない。男児が無事だったこともあり、祖母の行動には「実際に自身の車の窓を割るのは勇気がいると思う」「責めないでほしい」といった声が寄せられている。
今回は自身の車なので問題なさそうだが、今年も全国各地で猛烈な暑さが続いている。車中に閉じ込められた子どもを一刻も早く救うため、もしも「第三者」が窓を割ったとしたらどうなるだろうか。
●パチンコ店の巡回マニュアルに「ハンマー」の記載
たとえば、パチンコチェーンの業界団体がつくった「子どもの車内放置防止対策マニュアル」では、駐車場を巡回する際の持ち物の一つとして、ハンマーがあげられている。
子どもの様子次第では、店内で親を探したうえで、窓を割って救出するといったことが書かれている。星野学弁護士はこう説明する。
「車の窓ガラスを割る行為は理屈の上で『器物損壊罪』にあたります。ただし、 子どもの生命・健康に危険が迫っているのであれば、正当防衛と評価され、処罰されないでしょう」
同マニュアルには、子どもから一番遠い窓を割る、ガムテープを貼って飛散を防止するといった注意点が書かれている。ただし、一般の人の場合、そこまで気が回らないかもしれない。
「子どもにケガをさせた場合、その行為には正当防衛は成立せず『緊急避難』が成立するかどうかが問題となります。この場合、ガラスを割ってケガをさせるしか『他にとるべき手段がなかった』という条件が必要になります」
ただし、正当防衛・緊急避難が成立しなかったとしても、子どもを救うためであれば、形式上は犯罪に当たるとしても、不起訴処分になる可能性が高いと考えられるそうだ。
●まずは警察や消防の判断をあおぐ
刑事責任を負う可能性は低いと言えそうだが、割ってしまった窓ガラスの修理代を支払う必要はあるのだろうか。
「民事でも『正当防衛』として損害賠償請求が否定されるでしょう。
これに対して、子どもを放置した人と車の所有者が違う人の場合には、割った人は所有者に対して修理代金等を支払う責任が生じてしまいます。もっとも、支払った修理代金等はあとで子どもを放置した人に請求できるでしょう」
星野弁護士によると、こうしたトラブルを避けるためにも、自分だけで判断せず、警察や救急に電話して窓ガラスを割るべきかどうか指示をあおぐのが無難だという。