ここは日本のどこか。場所は明かせないが、風光明媚な景観に恵まれて、観光でそこそこ潤ってきた田舎の「村」だ。ところが、そんな平和な村を引き裂くような出来事が起きてしまった。新型コロナウイルスの感染拡大だ。
現在、住民たちは、観光客「受け入れ派」と「お断り派」の二つの派閥に分かれて、静かにせめぎ合っている。
●秘密警察のような組織もできている
「受け入れ派」は、感染に怯えているが、村にこれといった産業がほかになく、観光で食べていくしかないというスタンスだ。しかし、反対派の手前、目立った活動はできていない。
一方、「お断り派」は、村内のある一部の店に「観光客はお断り」の張り紙を掲げているほか、まるで、「秘密警察」のような情報網をつくりあげて、つぶさに情報共有しているという。
数少ない「中立派」だという住民が、戦々恐々としながら、弁護士ドットコムニュースの取材に答える。
「『お断り派』は、おしゃべりを装って、『どこから来たんですか?』と観光客に話しかけて、入手した情報をグループ内でシェアしています。自警団?いや、まるで特高か、ゲシュタポですよ。暴言・暴力はないですが、『なんで都会から来るんだ?』といった陰口が多くて、正直、息苦しいです」(住民)
●「自治体が主導して、ルールづくりしてほしい」
いずれの派閥の住民にせよ、村内で、新型コロナ感染者「第1号」になることを異常なほどにおそれているという。新型コロナに感染した場合、「確実に村八分にされると思います」(同上)。だからこそ、互いに「疑心暗鬼」になっているというのだ。
「良くも悪くも観光くらいしか、産業が残っていないので、あからさまに観光客の受け入れを拒否すると、今後、悪いイメージがつくと思います。何より村の総意ではなくて、それぞれが動いているのが心配です。本当は自治体が主導して、ルールづくりしてほしいです」(同上)
国の観光支援事業「GoToトラベル」が批判されながらもはじまり、さらにこれからお盆シーズンを迎えて、全国的に移動する人が増えると予想されるが、地域によっては、観光客に対する複雑な感情が入り交じる。
どこにでもあるような「村」の住民たちの間には、重苦しい空気が流れている。