街角で手を挙げて、走ってくる車を止める。あるいは、タクシー会社に電話して、指定の場所に車を回してもらう――。空車でさえあれば、よほどのことがない限り、タクシーの利用を断られることはないのが普通だ。しかし、ある衆議院議員が脱原発を主張しているために、タクシーの配車を拒否されていたことがわかった。
報道によると、この衆議院議員の秘書が1月上旬、福井県敦賀市の高速増殖炉「もんじゅ」を視察するために、同市のタクシー会社に配車予約の連絡を入れた。しかし、電話を受けた配車担当者は、同議員がホームページで「脱原発」を主張していることを知り、「原発立地地域としては原発は必要。反原発の議員の依頼は受けられない」と、独断で断ったのだという。
国土交通省中部運輸局から、タクシー会社に連絡が入り、社員の上司が議員側に謝罪したという。しかし、一社員の独断とは言え、主義主張を理由とした配車拒否は問題があるだろう。このような配車拒否は、何らかの法律に触れる可能性もあるのだろうか。一藤剛志弁護士に聞いた。
●配車を拒否できるのは「例外的なケース」だけ
「法的には、タクシーの配車も『契約』の一つです。契約は、申込に対する承諾がなければ成立せず、承諾するかどうかは、申込を受けた当事者が決めるのが原則です。
ただし、タクシーという公共性の高いサービスにおいては、承諾するか否かについて、事業者が完全に自由に決められるようにすると、利用者にとって不便な場面も出てきてしまいます。
このため、道路運送法では、タクシー等の一般旅客自動車運送事業を許可制にしたうえで、一部の例外を除いて、事業者は運送の引受けを拒絶してはならないと定めています」
タクシー会社は原則として、配車依頼を拒絶できないということだ。では、例外的に拒絶できるのは、どんな場合なのだろうか?
「運送の引受けを例外的に拒絶できる場合については、道路運送法13条と旅客自動車運送事業等運輸規則13条にくわしく挙げられています。
いくつか列挙すると、(1)申し込まれた運送に適する設備がない場合、(2)申込者から特別の負担を求められた場合、(3)運送が法令や公序良俗に反するものであった場合、(4)申込者が火薬類などの危険物を携帯している場合、(5)付添人を伴わない重病者である場合などです。
なお、泥酔した者等であって他の旅客の迷惑となるおそれのある場合も拒絶できるとされていますが、タクシーでは他の旅客に迷惑をかける場合はあまりないので、単なる泥酔だけではタクシーは拒絶できないことになります」
●タクシーは「重要な社会的インフラ」
乗車・配車拒否ができる「例外」は、厳しく制限されているようだ。そうすると、さすがに今回のようなケースは……。
「本件のような政治的主張の相違は、法令が定める『拒絶理由』に挙げられていないので、法律上、タクシー会社は運送の引受けを拒絶できません。
もしこのような理由による拒絶を認めてしまうと、タクシー会社が事実上、恣意的に乗客を選べることになります。そうなると、道路運送法の目的のひとつでもある利用者の利益の保護が害されてしまうので、実質的にもその結論が妥当と思われます」
もし、違反するような形で拒絶した場合には、何かのペナルティがあるのだろうか?
「運送引受義務違反に対するペナルティとしては、行為者と事業者に対して100万円以下の罰金という刑事罰や、事業用自動車の使用停止の行政処分やその公表などが、ルール上、定められています。
このように、非常に重いペナルティが科されるのは、『誰でも利用できるタクシー』というものが、重要な社会的インフラであることの裏返しです。
タクシー会社はその自覚を持って、責務を果たしてほしいと思います」