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新型コロナ対策、特措法改正による「緊急事態宣言」は本当に必要なのか
3月2日の参院予算委員会での安倍晋三首相(インターネット審議中継から)

新型コロナ対策、特措法改正による「緊急事態宣言」は本当に必要なのか

新型コロナウイルス感染拡大への対策として、安倍晋三首相は3月2日の参院予算委員会で、緊急事態宣言の実施を可能とする法整備に向けて急ぐ考えを表明しました。

安倍首相は「国民生活への影響を最小限に、最小化するために緊急事態宣言の実施も含め、新型インフルエンザ等対策特別措置法と同等の措置を講ずることが可能となる立法措置を早急に進める」と述べています。

新型インフル特措法(2013年4月施行、以下「特措法」)では、内閣総理大臣による「新型インフルエンザ等緊急事態宣言」(以下「インフル緊急事態宣言」)が出されると、住民の外出自粛や施設の使用中止を要請することができました。

これとは別に、国会では、新型コロナウイルス問題をきっかけとして、憲法に「緊急事態条項」をもうけることについての論戦もおきています。

国民の権利に制限をかけようとする動きと、「緊急事態」との兼ね合いをどう考えればいいのでしょうか。内山宙弁護士に解説してもらいました。

●特措法の緊急事態宣言で生活にどんな影響が出るか

ーー特措法に基づく「緊急事態宣言」が出されたとき、私たちの生活にどのような影響があるのでしょうか。

インフル緊急事態宣言が出されると、(A)外出自粛要請、(B)学校等の多数の者が利用する施設の使用やイベントの開催の自粛要請、(C)臨時の医療施設を開設するための土地・家屋・物資の使用、(D)物資の売り渡し要請、収容、保管命令などができるようになります。

ただ、罰則があるのは(C)の前提としての立ち入り調査の拒否等、(D)の物資の保管命令違反だけで、(A)外出したり、(B)イベントを開催したりすることには罰則はないので、外出等をすること自体に問題はありません。もっとも、土地等が使用されることになった時にそれを妨害したら、公務執行妨害が成立する可能性はあります。

また、今回、安倍首相による法的根拠のない小中高校の一斉休校要請の影響で、仕事を休んだ方への補償問題が取り沙汰されていますが、(A)外出自粛や(B)施設閉鎖やイベント自粛については補償する規定はなく、立法措置が必要となります。

重要なのは、特措法では、権利の制限は必要最小限であることが要求されていることです。例えば、今回の学校の休校は全国一律に要請されましたが、子どもたちの学ぶ権利の侵害でもあります。

必要最小限であるためには、感染が確認された地域だけに限定すべきではなかったのか、あるいはそもそも子どもで重篤な症状になる危険性が低いことから休校の必要性がどの程度あったのか、満員電車の方が問題だったのではないのか、いかなる専門的な知見の根拠があったのか、学校を休校する一方で学童保育で濃厚接触するなら意味がないのではないか等の問題が問われる必要があります。

●そもそも特措法の改正は必要あるのか

ーーそもそも今回、特措法の改正は必要あるのでしょうか。

政府は、特措法の改正を1週間程度でできると見込んでいるようですが、そうであればもっと早い段階で特措法の改正ができたはずです。さらに、そもそも改正しないと適用できないわけでもないと考えられます。

新型コロナウイルス自体は既知のもので新感染症ではないから適用できないと説明されているようですが、特措法で準用する感染症法では、「『新感染症』とは、人から人に伝染すると認められる疾病であって、既に知られている感染性の疾病とその病状又は治療の結果が明らかに異なるもので、当該疾病にかかった場合の病状の程度が重篤であり、かつ、当該疾病のまん延により国民の生命及び健康に重大な影響を与えるおそれがあると認められるものをいう。」とされています。

そうすると、従来のコロナと違って、今回の新型コロナは無症状でも感染させ、高齢者の重篤化の危険が高いわけですから、「病状又は治療の結果が明らかに異なる」ということは可能と考えられます。無理スジの東京高検の黒川弘務検事長の定年延長を口頭決裁で解釈変更してできるなら、この程度の解釈はできるはずです。

そうすると、憲法改正による緊急事態条項どころか、特措法の改正すら必要なく、今すぐ解釈変更して対応していくべきなのではないでしょうか。改正が必要だから適用できないというのは、さらに対応を遅らせることになります。むしろ、これまで対応が遅れてきたことの言い訳として、法改正が必要だったからと言っているのではないでしょうか。

●人権制限と補償のバランスを取るべき

ーー特措法改正のポイントを教えてください。

特措法では、感染者や感染の疑いのある方を隔離する権限そのものは書かれておらず、あくまで「要請」として本人の同意を得て隔離することしかできないと考えられますし、休業補償があるわけでもありません。ダイヤモンド・プリンセス号の乗客の待遇もあまりよくなかったという話もあります。

法改正するのであれば、隔離の権限、手続、内容を定める一方で、きちんとした待遇にすること、休業補償をすることなども定めて、人権制限と補償のバランスを取るべきでしょう。 また、外出や施設利用・イベント開催自粛で損害を被った場合の補償も盛り込まれるべきと考えます。

一方、中国からの入国制限については、特措法ではなく、出入国管理法5条1項の改正が必要になると考えられます。同法では、感染症の所見がある場合や、日本の利益・公安を害する行為をする恐れがある場合でなければ入国拒否をすることができないとされているためです。特定地域からの入国者に感染の疑いがあると言うだけでは、どちらも当てはまらないためです。

もっとも、感染症法では、強制入院できるのは感染症患者だけであること(同法46条)、その場合も期間制限があること、感染症法でも感染症の所見がないものの感染の疑いのある者に対しては外出しないことの協力を求めることができるだけであること(同法50条の2)等を考えると、措置法の改正で隔離できるようにすることは相当困難なのではないかと考えます。素直に、感染症法の適用ができるように解釈するのがよいのではないかと思います。

●事後的な検証を可能にする仕組みを入れるべき

ーーどんな課題がありますか。

以下(A)〜(D)の問題があります。(A)インフル緊急事態宣言は対策本部長である内閣総理大臣の権限ですることができ、国会には事後報告だけでよい。(B)期間が2年で、1年延長できることとされていて、期間が長すぎる。(C)緊急事態だからといって記録がきちんと残されない恐れや、国会への報告も簡単に済まされてしまう恐れがある。(D)司法救済も明記されていない。

そこで、期間の上限を短くし、宣言や延長には国会の承認を要することとし、記録をすべて国会に提出し、事実に基づいた説明責任を課し、事後的な検証を可能にする仕組みを入れ、損害を被ったらきちんと補償したり、間違った宣言については速やかに違法と判断したりして、それまでに取られてきた措置を巻き戻す仕組みも導入すべきと考えます。

権限を強くし、きちんとコロナ対策ができるようになることは重要ですが、それに対する民主的コントロールも強化して、バランスの良い制度にしていくことが必要ではないでしょうか。

●憲法改正で「緊急事態条項」があったとしても、判断を誤ると混乱するだけ

ーー特措法とは別に、国会論戦で「緊急事態条項」の話が出ていることについて、どうお考えでしょうか。

自民党が提案している憲法改正案の「緊急事態条項」では、政府が国会に代わって政令で様々な措置が取れるようになります。そうすると、一見、今回の新型コロナ問題でも、特措法で十分に対応できない点について、いろいろと対策が取れることになるようにも見えます。

しかし、緊急事態宣言をすれば事態を魔法のように解決できるわけではありません。今回の対応を見ても、専門家の意見も十分に聞かず学校の一斉休業を要請して日本中を大混乱させ、習近平国家主席の来日予定(現在は延期で調整中)もあって、的確迅速な水際対策もできず、ダイヤモンド・プリンセス号から下船した乗客の外出自粛も要請しておらず、結果的に各地で感染拡大の恐れが広がっています。

専門家の知見がなかったり、適切な判断ができなかったりすれば、緊急事態条項があったとしても混乱を招くだけです。

●もし緊急事態条項が存在していたら

ーー自民党が提案している憲法改正案の緊急事態条項に基づく緊急事態宣言(今回の特措法の緊急事態宣言とは別のものです)は、どのような場合に発動できるのでしょうか。

(A)首相が「緊急事態だ」と思えば緊急事態宣言を発動できます(いかなる専門的知見や疫学的根拠に基づいているのか不明なままでも、国会では過半数で承認されてしまう)。

(B)無制限に延長できます(ちょっとでも新型コロナ患者がいれば延長し続けることができてしまう)。

(C)政府が立法権を握ることができます(野党からの提案も無視できてしまう)。

(D)国会議員の任期を延長したり、選挙を延期したりできます(投票所で感染する恐れがあると言われてしまう)。

(E)国民の負担に対する補償が明記されていません(休業を強いられても補償がされない恐れがある)。

(F)緊急事態宣言が適切だったのか、その中で取られた措置が適切だったのかの司法審査が明記されていません(根拠のない緊急事態宣言だったとしても、裁判所が門前払いしたり、統治行為論で判断を避ける恐れがある)。

これらの問題点を見るだけでも、首相が一部の取り巻きの意見だけを聞いて独断で決められるようにするのではなく、国会で様々な意見を踏まえて、バランスの良い対策を実施することこそ重要ではないでしょうか。

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