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半裸男、立ち小便をかきわけ「ペルー最高裁」へ…汚職の横行、職員も「裁判所は信頼していない」
ペルー最高裁の民事法廷。扉は大きく開けられている。中央の裁判長と目が合う

半裸男、立ち小便をかきわけ「ペルー最高裁」へ…汚職の横行、職員も「裁判所は信頼していない」

ナスカの地上絵、マチュピチュなど世界中の人々を魅了する世界遺産にあふれたペルー。2019年12月某日、首都リマの最高裁判所を見学した模様をリポートする。開廷中は扉が開け放たれて部屋の中が丸見え丸聞こえの「開かれた裁判」でありながら、汚職の横行で国民からの信頼を得にくいそうだ。

●荘厳な石造りの最高裁、傍では「立ち小便」の男

リマ市街の交通機関「メトロポリターノ」の中央駅(ESTACIÓN CENTRAL)が最高裁の建物「PALACIO DE JUSTICIA」の最寄り駅だ。単純に「最高裁」を意味する言葉は「Corte Suprema de Justicia」が該当する。駅5番出口から出てすぐに荘厳な石造りの建物が目に入る。大階段が特徴的な正面玄関の目の前には高級ホテル「シェラトン」があるし、近くにはスターバックスの入るショッピングモールもある。

最高裁正面 最高裁正面

ただし、日本の最高裁(千代田区)がある土地柄を想像するのは間違いだ。建物の真横を歩くとすぐ、上半身裸の男たちが何かを購入させようと声をかけてくるし、路上駐車中の車と車の間では立ち小便をする男と目が合った。日本では軽犯罪法違反だが、ペルーでは該当しないのだろうか。

●泣き落としで入館できてしまった

  前日に訪れたリマのツーリストインフォメーションでは「ペルーの裁判所の傍聴はできません」と教わっていたが、結論から言えば「特例」は存在した。

拳銃を腰にぶらさげる警察が目を光らせる正面玄関からの入館は避ける。周囲にいくつかある出入り口のひとつで、職員に入館の許可を申し出た。

職員は英語を話せなかったが、「日本から来た。中を見たい。傍聴もしたい」とスマホのグーグル翻訳を利用して英語とスペイン語で頼みこむ。さらに「ポルファボーレ(お願いします)」の連発で畳み掛けて許可を取り付けられた。

出入り口のひとつ。入館には手続きとボディーチェックゲートの通過が必要 出入り口のひとつ。入館には手続きとボディーチェックゲートの通過が必要

まずは1階。通り抜けたボディーチェックゲート付近に設置された大型情報端末で各地裁判所の情報を検索可能(スペイン語表記で詳しくはわからない)。コーヒーや軽食の自販機もあるほか、カトリックの国らしく小さな教会の中からは讃美歌の音も聞こえてくる。

裁判所の教会で捧げる祈りは生臭そう 裁判所の教会で捧げる祈りは生臭そう

階段で2階に上がると、正面玄関の内側でライフルを持った4人の兵隊が直立不動で控えていた。後でわかることだが、正面からの出入りは何者も禁じられていた。

最高裁を見守る「公正の神」を描いたステンドグラス 最高裁を見守る「公正の神」を描いたステンドグラス

白を基調とした建物の中は吹き抜けになっていて、ステンドグラスの「公正を司る神」が上部から見つめる。風通しも日の光も入る開放的な空間は「美術館」と説明されてもおかしくない。3階を回る前に4階へ上がろうとしたが、4階フロアへの立ち入りは職員に待ったをかけられた。

●扉を開け放たれた「丸見えの裁判」

3階のいくつかの法廷のうち、1つの法廷の扉が開いていた。

「CIVIL」のプレートが民事の裁判であることを示す。原告か被告の家族と思しき母親と小さな女の子、そして職員が中をのぞいている。奥の長机には5人の裁判官が横並びに座り、原告側と被告側の弁護士が何事か主張している。まさに審理中のようだが、日本では審理中の法廷の扉が開けっ放しにされることはない。

職員によると、法廷手前の傍聴席に座ることはできる。ところが、傍聴席ではメモを取ることは許可されない。

扉の外でメモを取ることはできてしまうし、咎められることもなかったので「よくわからないルール」と思いつつも、傍聴席に座っておとなしく裁判を聞く。目標だった傍聴はこれで達成した。ただ、左右で対峙する代理人弁護士同士の論戦はスペイン語で繰り広げられるのでちんぷんかんぷんだが…。

弁護士が両手や腰と膝も大きく使って上下に動きながら全身で大げさに主張するのは「海外の裁判」の雰囲気があった。裁判官からの数回の問いかけが終わると、中央に座る裁判官(裁判長?)が机の上のハンドベルを鳴らした。

閉廷のようだ。部屋の外で弁護士の1人に声をかけた。今回の裁判は「不動産の合意」に関する訴訟だったそうだ。

裁判官も弁護士もみな首からメダルを提げていて、最高裁裁判官のメダルのリボン(ひも)の色は赤・白・赤でチリの国旗と同じ配色である。弁護士のものは水色。メダルが示すものは「裁判をリスペクトをする態度」なのだとか。

●職員が声をかけてくれた

最高裁の中をうろつく日本人が珍しかったのだろう。30代の男性職員が声をかけてきた。

「通常、関係ない人は誰も入れない。君のような旅行者もときどきなら入れることもある」。今回の体験はやはりラッキーだったようだ。

こちらは刑事の法廷 こちらは刑事の法廷

男性職員に案内されて、民事の法廷とは建物の真逆にある刑事(PENAL)裁判の法廷も案内してもらった。開廷後も扉が開きっぱなしなのは民事と同じ。

最高裁にはテレビ局「JUSTICIA TV」があって、一部の裁判は地上波やインターネットも生放送・生配信されているそうだ。職員と見た刑事裁判でも局員がカメラを回していた。それだけ公開されているなら傍聴席でメモを取っても…と再び首をひねる。

●信頼の低いペルーの司法

この職員との会話で印象的だったのは、「ペルー人は自国の裁判所を信頼していますか?」と聞いたところ、腹を抱えて笑いながら「ノー」と答えたことだ。

ペルーでは裁判官が関係者から金品を受け取る汚職が横行していると説明する。2018年8月に起きた大型汚職に地方裁判所長官の逮捕、最高裁判事の無期限停職処分、全国司法審議会委員7人全員の解任、そして司法長官まで辞任している。

海外の旅行者にまである程度開かれた裁判所でも、国民からの信頼は薄いようだ。自らの職場で「裁判所の信頼は低いよ」と職員が笑えるほどの自由は存在すると見てよいかもしれない。

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