弁護士ドットコム ニュース
  1. 弁護士ドットコム
  2. 国際・外国人問題
  3. 日本が他国から攻められたら何ができるのか…ウクライナ侵攻から考える制度問題
日本が他国から攻められたら何ができるのか…ウクライナ侵攻から考える制度問題
ウクライナへの支援物資を搭載する航空自衛隊のC-2輸送機(防衛省・自衛隊のツイッター https://twitter.com/ModJapan_jp/status/1501843195495616512より)

日本が他国から攻められたら何ができるのか…ウクライナ侵攻から考える制度問題

2022年2月24日にロシアがウクライナに攻撃して以降、日本でも自国の防衛体制についての議論が活発になっています。改憲か、護憲かという、憲法問題の議論も行われていますが、その問題を考えるためにも、そもそも現状の法律では何が出来るのかを理解する必要があるでしょう。

ロシアはウクライナにミサイル攻撃を仕掛け、その後航空部隊や地上部隊を送り込むという、ある意味古典的な武力行使行動に出ました。しかし、今回のような分かりやすい行動だけとは限りません。

ウクライナ攻撃のような明確な攻撃から、いわゆるグレーゾーン事態のような明確な攻撃とは言えない状況、そして日本ではない国が攻撃された場合に日本がどういう行動を取れるのかを、現行の法制度から考えていきます。(ライター・加藤博章)

●武力攻撃を受けた場合の行動、90年代に法整備

日本が武力攻撃を受けた場合の行動について、法制度が整備されたのは古い話ではありません。1993年に始まる北朝鮮の核問題や、1994年の台湾海峡危機など、日本周辺の安全保障環境が悪化していくことが認識され、日本でも武力攻撃を受けた際の対応策や法制度の不備が議論されるようになりました。

こうした中で1999年に重要影響事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律(周辺事態法)が公布され、法整備がようやくなされた訳です。

①他国に武力攻撃されたら、防衛出動

まずは、今回のロシアによるウクライナ攻撃のように他国が日本に攻撃を仕掛けた場合を考えていきます。日本に攻撃が仕掛けられた場合には、自衛隊法76条に基づき、内閣総理大臣が防衛出動を下令することになっています。武力攻撃が発生した場合の対処方針については、「武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律(以下事態対処法)」に基づいて、対処基本方針を作成し、それを国会が承認します。

しかし、現代戦においては、短期間で事態が推移します。国会での承認を待っていられない場合もあるでしょう。自衛隊法第76条第1項には、「緊急の必要がある場合には国会の承認を得ないで出動を命ずることができる」とあります。この場合には、出動後直ちに国会の承認を求めなければなりません。

日米安全保障条約に基づき、アメリカが介入することになっています。とはいえ、日本の防衛はあくまでも日本が責任を負うことです。日本が何もしないのに、アメリカが戦ってくれるという訳ではありません。主体はあくまでも、日本になるでしょう。

今まで議論しているのは、日本が攻撃を受けた後のことです。攻撃を受ける前に何が出来るのでしょうか。自衛隊法第77条では、「事態が緊迫した場合、防衛大臣は内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の全部又は一部に対し出動待機命令を発することができる。」としています。これは、防衛出動が出されることを想定して、部隊を待機させられるという意味です。

②攻撃される前の敵基地攻撃はかなり難しい

一方、昨今議論になっているのが、いわゆる敵基地攻撃能力や反撃能力とよばれるものです。北朝鮮の核・ミサイル実験などで、日本でも敵の基地を攻撃する能力を持つ必要があるとの議論が出されました。日本政府は、1956年2月29日の内閣委員会で船田中防衛庁長官が代読した鳩山一郎首相の答弁を踏まえ、ミサイル攻撃の防御のためならば、敵基地攻撃を行うことは可能としています。

しかし、可能というのと、実際に出来るかどうかというのは話が違います。2022年現在、日本は巡航ミサイルや弾道ミサイルと言った装備を保有していません。理論上は可能でも、実行は極めて難しい状況です。

加えて、攻撃できるかどうかを判断するのも難しいです。今回のウクライナ攻撃も、ロシアが攻撃を仕掛けたから、国境に兵力を展開していたのは、攻撃準備だったということが分かります。しかし、攻撃開始以前にウクライナが「ロシアが攻撃を仕掛けるから」と言って、攻撃をしていたならば、ウクライナの行動が正当化されたかどうかは分かりません。そして、ロシアはこれをウクライナ攻撃の絶好の口実にしたでしょう。攻撃前の敵基地攻撃は判断も含めて極めて難しいと言わざるを得ません。

③武力攻撃か、それ以前か、判断が難しいグレーゾーン事態

ここまでは明確な攻撃があった時にどうするのかというものです。しかし、尖閣諸島に武装した漁民が上陸したり、船舶が襲撃されたりといった警察や海上保安庁では対応が難しいものの、武力攻撃に至らない事態、いわゆるグレーゾーン事態でどう対応すれば良いのかという問題が議論されています。

日本の防衛法制では、武力攻撃以降、つまり戦時と、武力以前の状況、つまり平時が明確に分けて考えられています。しかし、戦時と平時が明確に区別されない事態が発生した時に、日本政府が対応できないのではないかという懸念が示されるようになりました。

グレーゾーン事態において、対処の法制は定められています。警察や海上保安庁の手に余るような状況では、自衛隊法第78条に規定された治安出動や第82条に規定された海上警備行動を発令することで、対応が可能です。しかし、グレーゾーン事態が難しいのが、法的には可能であっても、現実的に対応できるのかです。

グレーゾーン事態では、中国の海警局など、実際に仕掛ける主体に加えて、周辺海域で待機している中国海軍との連携が想定されています。この場合に懸念されるのが、中国は自衛隊の介入を口実に、自国を正当化しようとするのではないかというものです。一方、海上保安庁や警察では対応できない場合、自衛隊が出動しないとどうしようもないということもあります。グレーゾーン事態は判断の難しさを含んでいるという意味で複雑な問題です。

●もし、隣の国・地域が攻められたら何が出来るのか

これまでは、日本が攻撃を受けた場合の法制度を整理してきました。しかし、日本が攻撃を受けなくても、周辺の国や地域が攻撃を受ける場合もあります。北朝鮮が韓国を攻撃した場合、中国が台湾を攻撃した場合がこれに該当します。

①密接な関係にある他国→存立危機事態

2015年に成立した安全保障関連法で、日本と密接な関係にあるアメリカなど他国に対する武力攻撃により、日本の存立が脅かされる状態を存立危機事態と定めました。こうした状況で、他に適当な手段がない場合、必要最小限度の実力行使にとどめるという条件で、集団的自衛権による武力行使を容認することになりました。

密接な関係にある国とはどういう国でしょうか。2015年に提出された政府答弁書(「水野賢一参議院議員の質問に対する政府答弁書」内閣参質189第202号、2015年7月21日)において、「我が国と密接な関係にある他国」は、「外部からの武力攻撃に対し、共通の危険として対処しようという共通の関心を持ち、我が国と共同して対処しようとする意思を表明する国を指すもの」とし、「我が国が外交関係を有していない国も含まれ得る」としています。

一方、台湾のように日本が国と認めていない地域は、「お答えすることが困難」と回答を避けています。台湾が攻撃を受けた時に限らず、存立危機事態は提起されたことがありません。実際にどうなるかは分かりません。

②米軍の介入→米軍基地の使用を認めるかどうか

他国で危機が発生した場合、日本ではなく、アメリカが支援する場合もあります。アメリカが日本の基地を使って戦闘行動を行う時には、日本政府と事前協議を行うとしています。実際に行われるかは分かりませんが、制度上は行われることになっています。

また、重要影響事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律(重要影響事態安全確保法)に基づき、放置したら日本への武力攻撃の恐れがあるなど、日本の平和と安全に重要な影響を与える状況、つまり重要影響事態に認定することが必要になります。こうすることで、米軍の防護や後方支援が可能になります。

③他国が単独で戦う時→物資支援

これまでは、日本やアメリカが共に戦う場合の話でした。しかし、そうした助力が得られずに、単独で戦う場合もあります。こうした場合、何が出来るのでしょうか。想定されるのは、物資の支援です。日本は東アジアにおいて屈指の工業国であり、1950年に勃発した朝鮮戦争時のように、後方拠点として機能することが期待できます。

戦後日本は武器輸出三原則の下、武器の輸出を厳しく制限していました。しかし、2014年に日本政府は武騎輸出三原則を廃止し、防衛装備移転三原則を策定しました。これは条件付きで武器輸出を認めるものです。ロシアによるウクライナ攻撃に伴い、日本政府は2022年3月8日に運用指針を変更しました。従来、運用指針では、相手先を我が国と安全保障面での協力がある国としていましたが、ウクライナは該当していなかったためです。

今回のウクライナ支援では、3月8日に、ウクライナへの防弾チョッキやヘルメットなどの提供を決めました。そして、4月19日には、ドローンや化学兵器に対応する防護マスク・防護衣の提供が決定しています。支援物資として送られているのは、武器・弾薬など殺傷能力を持つもの以外です。武器・弾薬など殺傷能力を持つものの供給については、これまでに行われていませんが、日本周辺での有事となった際には防衛装備移転三原則に基づき、判断が行われる可能性があります。

●法制度は整備されても、実際に行うかどうかは政府の判断

ここまで、日本が他国に攻撃された場合、日本周辺の国が攻撃された場合に何が出来るかを法制度という点から整理してみました。これまで紹介してきたように、90年代以降、周辺事態法や平和安全法制という形で、日本の安全保障に関する法的枠組みは急速に整備されてきました。しかし、今回紹介したのは、あくまでも法制度に過ぎません。例えば、グレーゾーン事態のように、法律上可能であっても、行うかどうかは時の政府の判断によります。

安全保障体制の議論になると、憲法問題に議論が集中しがちです。しかし、法制度が出来たから、自動的に発動するという訳ではありません。法律を活かし、円滑な行動を行うためには、政府の判断が欠かせません。法律はあるけれども、行動できなかったというのでは本末転倒です。日本の安全を守るためにどうすべきなのか、憲法問題だけではなく、総合的に考える必要があるでしょう。

<参考資料>

田中佐代子「敵基地攻撃能力と国際法上の自衛権」『国際法学会エキスパート・コメント』No.2021-2
中村進「台湾危機と日米の対応(後編)―日本はどう準備・対応すべきか?」『国際情報ネットワーク分析IIIA』2021年5月28日。
防衛省「第5章 自衛隊の行動などに関する枠組み」『防衛白書2021年版』

【著者プロフィール】加藤博章。1983年東京都生まれ。関西学院大学国際学部兼任講師、一般社団法人日本戦略研究フォーラム研究員。専門は、国際関係論、日本政治外交史、主に日本の国際貢献、安全保障政策。主著に加藤博章『自衛隊海外派遣の起源』勁草書房、2020年。

オススメ記事

編集部からのお知らせ

現在、編集部では正社員スタッフ・協力ライター・動画編集スタッフと情報提供を募集しています。詳しくは下記リンクをご確認ください。

正社員スタッフ・協力ライター募集詳細 情報提供はこちら

この記事をシェアする