ロシア軍によるウクライナ侵攻を受け、政府によるウクライナ避難民の国内受け入れが始まっている。古川禎久法相は3月8日、参院法務委員会で、3月2日の岸田文雄首相による受け入れ表明後、8人の避難民を日本に入国させたことを明らかにした。
この入国に先立ち、小野田紀美参院議員(自民党)が3月4日、ウクライナ避難民は、「侵略戦争からの一時的な『避難民』であり難民ではありません」とツイッターで投稿し注目を集めた。
【ご注意】
— 小野田紀美【参議院議員(岡山県選挙区)】 (@onoda_kimi) March 4, 2022
今回ウクライナから避難された方々は、部会の提言にも記載しているように侵略戦争からの一時的な「避難民」であり難民ではありません(難民の定義は画像参照)。避難民として、日本もしっかり支援して参ります。
意図的に難民扱いをして他のイシューをゴリ押す動きが見られるゆえ念のため。 https://t.co/ZahacsEbUt pic.twitter.com/taz2MwBqHs
ロシアによるウクライナ侵略を踏まえた日本政府の対応については、首相官邸のホームページで公表されている。そこでは、「ウクライナから日本への避難民の受入れの推進」と書かれている部分について、英文では「evacuees(避難民)」と訳されており、「refugees(難民)」とは異なる表記となっていることがわかる。
●「難民」は条約で定められている
では、「難民(refugees)」と「避難民(evacuees)」はどう違うのか。
「難民」については、日本も加入している「難民の地位に関する条約」(難民条約)で、次のように定められている。
「人種、宗教、国籍もしくは特定の社会的集団の構成員であること、または政治的意見を理由に、迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する国籍国の外にいる者で、その国籍国の保護を受けることができない、またはそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まない者」
いわゆる「条約難民」といわれており、日本では難民認定制度のもと、認定判断については法務省(出入国在留管理庁)が所管している。このほか、日本で暮らす難民として、インドシナ難民や第三国定住により受け入れた難民がいる。
「避難民」について定める法令等は見当たらず、文字通り、「災害や紛争などで避難してきた人々」という意味以外は特にもたない。日本政府も主権に基づく裁量で、人道上の配慮として、避難民という形で受け入れるものとみられる。
なお、「国内避難民(Internally Displaced Persons)」と呼ばれる人々もいる。
これは、政治的な迫害、武力紛争、内乱状態、武力による強制立ち退き、さらには大規模な人権侵害などの状況に直面し、他の場所に避難せざるをえなかった人々のうち、国際的に承認された国境を越えていない者を意味する。
法的な定義はないが、国連では一般的に用いられており、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は世界の難民・国内避難民に関する統計を公表している。
●一律「避難民」として扱うことは妥当か?
政府が「(条約)難民」と「避難民」を意識的に使い分けている背景にはどんな理由が考えられるのか。
難民問題に詳しい髙橋済弁護士によれば、条約難民はもともとは自分たちの住んでいた国による迫害を受けている場合を想定しており、ウクライナ避難民については「ウラクイナから国家としての保護を受けられるのかという問題がある」と指摘する。
迫害の主体がウクライナ政府ではなくロシア政府ということになると、自分たちの住んでいた国による迫害にはならないため、当然に、国家的保護が受けることができない状況といえないため、現時点では、条約難民ではなく、避難民として扱われることが多いのではないかという。
一方で、「他国による侵攻からの逃れてくる人々が常に難民に当たらないということではない」とし、ウクライナ避難民についても「条約難民に当たるケースもあるはずだ」と話す。
「内戦が起こったシリアで政府の支配が及ばないイスラム国(IS)、ソマリア、イエメンなど国家が破綻し、その保護が期待できないような場所から逃れてくるような避難民は『条約難民』に当たります。
今回の場合でも、ロシア軍が侵攻する以前からウクライナ東部の分離独立派が実効支配する地域から逃れてくる人々については、おそらく条約難民に当たります。
今後、ウクライナの人たちが、ウクライナ政府に対して、国家としての保護を期待できない状況、国家として破綻しているなどの状況に至れば、ウクライナの人々も『条約難民』となりえます。問題はこのような状況に現在あるのかということです」(高橋弁護士)
ウクライナでは現在、戒厳令や総動員令により、軍の徴兵対象となっている18~60歳の男性の国外脱出が認められていない。戦争に参加したくないとして徴兵を拒否して逃れてくる人々についても、「国際基準では条約難民に当たりうる」という。
現時点では「ウクライナから逃れてくる人々全員が条約難民だというのは難しいかもしれませんが、全員が避難民だというのも違うと思います。
ロシア支配地域から逃れてくる人々、および戦争に参加したくないとしてウクライナ自身から逃れてくる人々、この2つの類型については基本的には条約難民に当たるでしょうから、日本政府はその方々を『難民』として受けるべきだと思います」(髙橋弁護士)
人道上の配慮で避難民として受け入れられても、国が恩恵的に認めた在留許可となるため、難民認定を受けた場合に比べ、在留資格が不安定なものとなる。
「まず条約難民に当たる人を難民として保護し、そのうえで条約難民に当たらない人については避難民として保護するという手順を踏むのが、本当のあるべき姿なのではないかと思います」(髙橋弁護士)
(3月14日22時30分、一部追記しました)