お隣さんが飛び降り自殺をして、我が家が事故物件になってしまったーー。弁護士ドットコムの法律相談コーナーに不動産をめぐる投稿が寄せられた。
投稿者によると、隣の家の住人女性が飛び降り、投稿主の玄関前の駐車場に落ちて亡くなったそうだ。事故により、家の駐車場には血の痕が残ってしまった。投稿者は「毎朝出勤時に娘さんが落ちた場所から車に乗るので辛い」とこぼしている。
投稿者は、遺族に慰謝料や損害賠償を請求できるのか。また、不動産売買などをする際に、事故物件扱いされてしまうのか。高橋辰三弁護士に聞いた。
●「告知義務」はあるのか?
「まず、いわゆる『事故物件』になるのかどうか検討します。『事故物件』は、法律上明確に定義されているわけではありませんが、自殺や殺人等、当該物件を購入(または賃借)しようとする人に心理的な嫌悪感を生じさせる事実がある物件をいいます。
本件においては、投稿者の物件での『飛び降り』があった訳ではありません。しかし、投稿者の物件の玄関前の駐車場に落ちて亡くなってしまった以上、いわゆる事故の現場であるという評価は避けられず、次の購入者が嫌悪感を持つといえますので、『事故物件』に当たるといえるでしょう。
したがって、本物件を扱う宅建業者には、本物件の購入者に対し、本物件の隣家で飛び降り自殺があり、本物件の駐車場に落下して死亡したことについて、説明する義務があるといえます。
また、告知が必要な期間について、法律上の規定や指針があるわけではないので一概には言えませんが、裁判例などから判断すると事件から5年~7年程度は告知義務があると考えられます」
●慰謝料や損害賠償は請求できる?
では、慰謝料や損害賠償を請求できるのだろうか。
「まず、請求の相手方が誰になるのか考えてみましょう。原則として『事故物件』の原因を作った本人ということになりますが、本人は亡くなっていますので、その相続人が損害賠償責任を負うことになります。
では、相続人に対して慰謝料や損害賠償の請求はできるのでしょうか。投稿者は『毎朝出勤時に娘さんが落ちた場所から車に乗るので辛い』状況にあり、精神的なダメージを受けていると思われます。
しかし、このような場合、遺族に対して、慰謝料を請求しているケースは見当たりません(実際、自殺のあった隣家の遺族にそのような賠償を求めるという決断をする人は少ないのでしょう)。また、そのような請求は、現実的な選択肢ではないと思われます」
その他の損害賠償請求についてはどうか。
「駐車場が壊れた場合には修理代、清掃費用を損害賠償として請求できます。また、本物件が『事故物件』となることにより、買い手がつきにくくなる(評価額が下落する)という経済的損失が生じます。そこで、本物件の所有者は、財産権に対する侵害として、同物件の価値の下落分を損害としてとらえ、相続人にその賠償を求めることもできると思います。
ただし、本件においては、自殺現場が家屋の中ではなく、家屋から飛び降り、たまたま隣家の敷地に落下しているというものであり、次の不動産の買主がその自殺のあった空間に住むというわけではありません。価値の下落の評価といってもその額の算定は難しいでしょう。
なお、自殺者の相続人全員(相続放棄により新たに相続人になった後順位相続人を含みます)が相続放棄をした場合には、残念ですが、投稿者は損害賠償請求はできません」