NHKが4月に放送した「取り調べの可視化」をテーマにした番組のなかで、実際に取り調べの様子を録画した映像が使われた。この映像は、大阪地裁の裁判員裁判で証拠として提出されたもので、その裁判で弁護人をつとめた弁護士が「取り調べの実態を国民に周知できる」として、NHK側に提供したという。
しかし、この映像提供について、大阪地検は「刑事訴訟法が禁じる『証拠の目的外使用』にあたる」と反発。この弁護士が所属する大阪弁護士会に対して、懲戒処分を求める請求をしたのだ。NHKは「関係者の了解を得たうえでプライバシーに配慮して使用しており、懲戒請求は遺憾」とコメントしているという。
取り調べの可視化が問題となっているときだけに、こういった映像を広く伝えることは公益性が高いようにも思えるが、検察が主張するように「証拠の目的外使用」として懲戒を受けなければならないのだろうか。大和幸四郎弁護士に聞いた。
●「証拠の目的外使用」ではあるものの、公益性が高く、実害は少ない
「今回の件は確かに、検察の指摘どおり『証拠の目的外使用』に該当するでしょう。また、この弁護士は『目的外使用をしない』という誓約書を検察に提出しています。したがって『検察の抗議はやむを得ない』と考えます」
――では、今回の映像提供は「ダメだ」といえるのか。
「難しい問題で、単純に『悪い』とは言いきれません。誓約違反をした人に対してどんな措置を行うかは、行為の目的や証拠の内容なども考慮して決めるべきではないでしょうか。また、報道の自由という観点も忘れてはいけないと思います」
――具体的にはどういう点を考慮しろということか。
「まず目的ですが、弁護士があえて証拠の『目的外使用』をしたのは、『取り調べの実態を明らかにする』ためでした。取り調べの実態は、国民の関心事である『取り調べの可視化』を議論するための、前提となる情報です。これを広く知ってもらうことは、公の利益にかなうと言えるでしょう」
――証拠の内容については?
「考慮すべきポイントは、次の4点です。
(1)本件証拠のDVDは、実際に法廷で開示されたものである
(2)放送時期は無罪判決確定後であり、裁判に影響がない
(3)関係者の了解を得ている
(4)弁護士はNHKから対価を得ていない」
――では、結論としては、どう考えるか。
「今回弁護士が行った情報提供が『公益目的』だったことや、証拠がすでに終わった裁判で開示されていたことなど、諸事情を総合的に考えると、検察が懲戒請求をしたのは行き過ぎと考えます」
大和弁護士はそう結論づけたうえで、「私自身は『国民に開かれた司法』の理念やえん罪の防止の観点から、取り調べは可能であれば全面可視化した方が良いと思っています」と付け加えた。
取り調べの可視化が議題になっているのは、そこに多くの疑問が投げかけられているからだ。しかし残念ながら、その「実態」を国民が知る機会はほとんどない。そもそも十分な情報があれば、弁護士がこういったことをする必要はなかったともいえる。プライバシーへの配慮や裁判への影響排除は大前提だが、国にはより積極的な情報提供をお願いしたい。