伊豆大島沖で昨年9月に起こった貨物船同士の衝突事故。転覆した第18栄福丸の乗組員6人が死亡する惨事となった。第18栄福丸の船主らと保険契約を結んでいた保険会社は、衝突したジィア・フイ号の当直責任者だった中国人航海士に対して、1億円の損害賠償を求める訴訟を起こした。
静岡地裁沼津支部が4月下旬に出した判決は、保険会社の請求どおり、1億円の請求を全額認めるという内容だった。この裁判で、被告の中国人航海士は請求棄却を求める答弁書を提出したものの、その後は準備書面を提出せず、口頭弁論もすべて欠席した。そのため、裁判所は、被告が請求について争わないものと判断したようだ。
ところで、裁判というと、当事者は必ず出席しなければいけないような気もするが、欠席しても問題ないのだろうか。また、裁判を欠席すると、どのようなデメリットがあるのか。好川久治弁護士に聞いた。
●一方の当事者が欠席しても裁判は進んでいく
「裁判は、訴えを起こした原告と、請求の相手方とされた被告との間で、主張と証拠を闘わせて裁判所の判決を得るための手続です」
このように好川弁護士は切り出した。
「日本では公開の法廷で、当事者が口頭で主張・立証した事実をもとに裁判をする建前となっていますので、裁判の進行には、当事者本人やその代理人の出席が不可欠です。例外的に出席しなくてもよいのは、書面による準備手続や判決の言渡し期日など一部だけです」
好川弁護士は裁判のルールをこう説明する。しかし実際には、当事者本人やその代理人である弁護士が法廷にあらわれない場合がある。
「その理由はさまざまですが、たとえば、次のような事情が考えられます。
(1)裁判に負けても、強制執行で取られるものは何もないので放っておこう
(2)忙しくて仕事を休めないので出席できない
(3)何をどうすればよいのか分からないので放置した
(4)行方不明のため、裁判を起こされていること自体を知らなかった」
では、当事者が欠席した場合、裁判はどうなるのだろう。
「いったん訴えが起こされた以上、裁判所は審理を進めなければなりませんので、一方の当事者が欠席した状態でも裁判は進んでいきます。その結果、欠席した当事者は、不利益を受ける可能性があります」
●放っておくと、いつの間にか裁判に負けてしまうこともある
では、具体的にどのような展開が考えられるのだろうか。好川弁護士は、訴えられた側である被告のケースを例にあげて、次のように説明する。
「たとえば、原告に訴えられて、口頭弁論のために法廷に呼び出しを受けたにもかかわらず、答弁書等を提出しないで期日に欠席すると、原告の主張を認めたものとみなされ、原告勝訴の判決が下されることがあります。いわゆる、欠席判決です」
つまり、何もしないで放っておくと、いくら自分に非がなくても裁判に負けてしまうことになるというのだ。今回の貨物船衝突事故の裁判も、1億円という請求金額がそのまま認められたのは、裁判を「欠席」したことが大きく影響しているといえそうだ。