国葬やコロナ、旧統一教会など課題が山積する中、岸田文雄内閣が臨時国会を召集しないのは憲法53条に違反しているとして、5人の弁護士と憲法学者らが8月30日、参院議員会館で緊急の記者会見を開いた。
2018年以降に岡山、那覇、東京で憲法判断を仰ぐ国家賠償訴訟を担当している弁護団で、「これまで示された6つの判決はいずれも、召集することは内閣の法的な義務としている。召集しないのは、司法の軽視だ」などと訴えた。
●「少数派の意見を反映させるため、義務の履行は極めて重要」
憲法53条後段は、衆参いずれかの総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は、臨時国会の召集を決定しなければならないと定めている。
訴訟は2017年に森友・加計問題に揺れていた安倍政権が、98日間にわたって臨時国会を召集しなかったことについて、国会議員を原告として賠償を求めており、最高裁の判断待ちの状態だ。
いずれも賠償の請求は棄却されているものの、召集の義務については、それぞれの裁判所が判断を示している。那覇訴訟を担当する事務局長の小口幸人弁護士は、特に今年3月の福岡高裁の以下の部分が重要だと説明した。
「内閣の義務は、行政部と立法部との間の均衡・抑制関係の一部をなすものであり、憲法15条1項で保障された国民の選挙権の行使を通じて表れた国民の意見を多数派・少数派を含めて国会に反映させるという観点からも、上記の義務の履行は極めて重要な憲法上の要請であることは論をまたない」
「裁判所がこれだけ強い言葉を使っている。議員は国会が開かなければ質問もできない。国会は本来、自分たちで開くことができる『自律的集会権』がある。内閣の下請けに成り下がってはいけないはずだ」(小口弁護士)
●「司法判断後も官房長官の弁解は更新されず」
今回、8月18日に提出された野党側の召集要求に対し、松野博一官房長官は23日に「憲法は召集時期について触れられていないため、内閣に委ねられている。合理的な期間内に決定する」と述べている。
召集時期について、那覇地裁判決は「内閣の裁量は必ずしも大きくない」と指摘。また岡山地裁判決も「召集決定は事務的手続きにすぎず、時期等を国会との関係のために調整できるものではない」としている。
岡山訴訟を担当する賀川進太郎弁護士は「司法判断が出ても、菅・加藤官房長官と同じ弁解を繰り返している。裁判で国は(90日間が合理的だとは)主張していない」と批判する。
高井崇志元衆院議員も「野党は定例行事のように召集要求を出しているわけではない」と説明し、国葬や旧統一教会問題など世間の関心があるなかで開かないのはおかしいと訴えた。
●「背後にいる主権者を軽視している」
主に東京訴訟に関わる伊藤真弁護士はこう強調した。
「裁判所は精一杯、強いメッセージを出しているが、政権には一向に響いていない。邪推かもしれないが、地裁や高裁の判断にすぎないと下に見ているのではないか」
「たとえ少数派だとしても議員の要求を無視することは、その議員を選んだ主権者を軽視していることにほかならない。三権分立を機能させられる国なのかが突きつけられている」