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2015年12月30日 08時41分

不正競争防止法の改正で「産業スパイ」厳罰化ーー企業はどんな注意をすべきか?

不正競争防止法の改正で「産業スパイ」厳罰化ーー企業はどんな注意をすべきか?
写真はイメージです

2016年1月1日、企業の営業秘密の漏えい防止を目指す「改正不正競争防止法」が施行される。各都道府県警は改正法施行までに、産業スパイ事件を捜査指揮するポストを新設すると報じられている。警部、警視級の「営業秘密保護対策官」が、捜査指揮などにあたるのだという。

なお、改正法は、外国企業への漏えいに対して最大10億円の罰金を科すほか、盗んだ企業秘密で得た不正利益を政府が没収するなど、不正な手段で情報を取得した個人や会社への罰則を大幅に強化している。

産業スパイの問題に詳しい弁護士は、今回の改正法をどう評価するのだろうか。改正法の施行により、企業側にはどのような注意が求められるのか。中国など外国企業との渉外・知財案件を中心とする企業法務に詳しい遠藤誠弁護士に話を聞いた。

●背景に「憂慮すべき重大事案が多数発生」

「2015年7月の不正競争防止法の改正により、罰金刑の額の引き上げ、犯罪で得た利益の没収、未遂罪の処罰などが図られました。今回の改正は、日本企業の有する技術情報が中国や韓国などの外国に流出するのをいかに防ぐかを、念頭に置いたものといえます。

企業の営業秘密漏えいに関しては、近時、次のような憂慮すべき重大事案が多数、発生していました。

・新日鐵の有する高級鋼板の製造技術が、韓国のポスコに流出したとして訴訟になった事案

・東芝の有するフラッシュメモリ製造技術が、韓国のSKハイニックスに不正に流出した事案

・ヤマザキマザックの有する機械図面を不正に取得したとして、中国人元社員が有罪判決を受けた事案

今回の改正の背景には、このままでは、日本企業の有する高い技術力および国際競争力の低下につながりかねないという危機意識があるといえます」

罰則強化により、流出被害は減るのだろうか?

「今回の改正が実際にどの程度の効果を有するかは、今後の運用を見守る必要がありますが、捜査機関に司法取引やおとり捜査の権限を認めるくらいでないと、目に見える効果は期待しにくいのではないかと思われます。

また、実際の行為が外国で行われている場合や証拠が外国に存在する場合は、その外国の捜査機関の協力が得られないと、実際の摘発は難しいといえます。その意味でも、今回の改正による実効性には限界があると思われます。

日本企業としては、秘密情報が漏えいした場合、訴訟提起などにより事後的に対応することも考えられますが、営業秘密侵害訴訟は一般的に立証が難しく、証拠不十分で敗訴する可能性もありますし、何より膨大な時間と費用がかかります」

●「漏えい事案の多くは、従業員の退職に伴って行われる」

「むしろ、秘密情報を漏えいさせないように、日頃から、社内の情報管理体制をしっかりと整え、運用していくことが重要です。

社内の全ての情報を管理しようとすると、膨大な事務作業と費用が必要となりますので、自社にとって特に重要な秘密情報に絞った上で、その秘密情報を守るための物理的・技術的・組織的対策をとることが必要です。

企業が行うべき具体的対策については、経済産業省が公表している『技術流出防止指針』や『営業秘密管理指針』が参考になるでしょう」

最後に、遠藤弁護士は次のように指摘した。

「秘密情報の漏えい事案の多くは、従業員の退職に伴って行われています。

よって、退職予定の従業員がアクセスできる社内情報を制限したり、従業員が退職する際には秘密保持誓約書を提出してもらうこと。また場合によっては、退職予定の従業員との間で、同業他社には就職しない旨の契約を締結することを検討してみてもよいでしょう。

法律や刑罰の厳罰化のみで、秘密漏えいを完全に防止することは著しく困難です。このことは、たとえば、刑法の規定により、強盗や窃盗を犯せば懲役刑に処せられる可能性があるのに、いつまでたっても、強盗や窃盗がなくならないのと同様です。

強盗や窃盗を防ぐには、刑法改正により刑罰を重くすることよりも、暗い夜道の街灯を増やして明るくすることや、監視カメラを増やすことのほうが、よほど大きな効果があります。同様に、企業からの秘密漏えいを防ぐためには、不正競争防止法の改正だけに頼ることなく、企業内部の情報管理体制の見直し・再構築が必須といえます。

もちろん、企業に営業秘密侵害・秘密漏えいの疑いがある事案が生じた場合に、ただちにあきらめるのではなく、警察に相談して刑事事件として立件してもらうケースが今後は増えてくると思われます。今こそ、日本企業は、技術流出防止対策・秘密漏えい対策を最大限可能な限り講じるという姿勢をもって、本気で臨むべきでしょう」

(弁護士ドットコムニュース)

遠藤 誠弁護士
1998年弁護士登録。2006~2011年、北京事務所に駐在。2013年に、大手の法律事務所から独立し、「ビジネス・ローの拠点」(Business law in Japan)となるべく、BLJ法律事務所を設立し、現在に至る。中国等の外国との渉外案件・知財案件を中心とする企業法務案件に従事。「世界の法制度」の研究及び実践をライフワークとしている。
所在エリア:
  1. 東京
  2. 千代田区
事務所名:BLJ法律事務所
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