2020年05月24日 09時42分

佐賀新聞「押し紙」判決のインパクト、他紙にも飛び火か? 判決詳報

園田昌也 園田昌也
佐賀新聞「押し紙」判決のインパクト、他紙にも飛び火か? 判決詳報
寺崎さんと弁護団長の江上武幸弁護士(ジャーナリスト黒藪哲哉さん提供)

「社会の木鐸」であるはずの新聞社が「不正」や「弱い者いじめ」をしていたと裁判所が認定したーー。

新聞販売店が、余分な新聞の仕入れを強制される「押し紙」被害を訴えていた裁判で、佐賀地裁(達野ゆき裁判長)が5月15日、佐賀新聞の押し紙を認定した。約1070万円の賠償命令をくだされた同紙は、控訴する方針を示している。

押し紙の存在は広く知られているが、販売店の勝訴は珍しい。和解で終わることも多く、押し紙自体の損害賠償が認められた裁判例になると、ほかには山陽新聞事件(広島高裁岡山支部平成23年10月28日判決)くらいしかない。

珍しさもあって、テレビではNHKとサガテレビが報じている。一方、約150紙誌を横断検索できる「G-Searchデータベース」によると、新聞報道は西日本新聞だけだった(5月22日現在/なお、同紙ウェブサイトへの掲載は見当たらなかった)。

ただし、報じられたといっても、あくまでも概要に過ぎない。今回の判決は、原告となった販売店だけでなく、86店舗ある佐賀新聞の販売店のほとんどに押し紙がある可能性を示唆する、新聞業界にとってはインパクトの大きい内容になっている。

販売店は、険しい認定ハードルをどうやって乗り越えたのか。詳細をお届けしたい。(編集部・園田昌也)

●捨てるしかない新聞を「毎月80万円」仕入れる

原告は、吉野ヶ里販売店の元店主・寺崎昭博さん(49)。親から引き継ぎ、2009年4月から2015年12月まで経営した。

引き継いだときは新聞の余りも1日300部ほどだったそうだが、年々増えていき、3年目には400部、4年目には500部台に達した。

佐賀新聞の仕入れ値は月1692円。押し紙が500部だとしたら、誰も読まない新聞のために毎月85万円、年間だと1000万円ほどを余計に新聞社に払っていたことになる。

「業者に頼んで1週間に1回、回収に来てもらっていました。人目に触れさせるわけにもいかないので、事務所兼用で建てた倉庫の片隅に、シートをかけて置いていました」(寺崎さん)

寺崎さんの店にあった押し紙の一部(ジャーナリスト黒藪哲哉さん提供)

●予備紙率の基準示す画期的判決

ただし、配らなかった新聞のすべてが「押し紙」といえるわけではない。

新聞販売店はもともと、新規営業や雨による破損などに備えて、購読者数よりも余裕を持った部数を仕入れている。これを「予備紙」という。

つまり、余った新聞から予備紙分を引かないと、押し紙の量は分からないのだ。

そこで判決はまず、適正な予備紙の割合を判断している。

寺崎さん側は「新聞公正取引協議会」の過去の細則などを根拠に、適正予備紙率は購読者数の2%だと主張。対する佐賀新聞は、この規定は20年ほど前に廃止されているなどと反論していた。

佐賀地裁はこの点について、次のように判断した。

(1)寺崎さん側が示した基準は古すぎる。標準的な予備紙率を示す基準は見当たらない
(2)代わりに、販売店が実際に必要としていた予備紙率を明らかにする必要がある

結局、裁判所は店舗の実態や寺崎さんの証言なども参考に、吉野ヶ里販売店が必要としていた予備紙の割合を2%と認定した。

ちなみに、筆者が勤めていた熊本日日新聞は、押し紙の廃止などで1980年代に新聞協会賞を受賞している。現在の予備紙率は1.5%だそうなので、2%は妥当なものといえそうだ。

●「強制」の決定的証拠はなかったが…

押し紙は法律上、「独占禁止法」によって禁じられている。新聞社が力関係の違いを利用して、販売店に不利益を与えているということだ。

▼新聞業における特定の不公正な取引方法
(平成11年7月21日公正取引委員会告示第9号)

第3項 発行業者が、販売業者に対し、正当かつ合理的な理由がないのに、次の各号のいずれかに該当する行為をすることにより、販売業者に不利益を与えること。

1号 販売業者が注文した部数を超えて新聞を供給すること(販売業者からの減紙の申出に応じない方法による場合を含む。)。

2号 販売業者に自己の指示する部数を注文させ、当該部数の新聞を供給すること。

そこで佐賀地裁は、予備紙とはいえない大量の「残紙」が新聞社の強制、すなわち「押し紙」だったかを吟味していく。

押し紙の裁判では、ここが販売店にとって鬼門になりやすい。販売店が借金をしてまで仕入れていても、録音や書類などの証拠がないと、自発的な注文だとみられてしまうのだ。

今回の裁判では、寺崎さんと佐賀新聞とのやり取りの録音が一部残っていた。しかし、「何部減らしてくれ」「ダメだ」というような発言はなく、決定打に欠けた。

「佐賀新聞との契約は3年更新。あまり強く言うと、次の更新がなくなったり、担当エリアが狭くなったりするかもしれないと思いました。

店の借金があったので、仕事を失うわけにもいかないし…。それに押し紙さえなければ、十分生活ができる状況でもありました」(寺崎さん)

寺崎さんの店の押し紙推移(押し紙率は(押し紙/定数)で単純計算

仕入れの強制について、佐賀新聞は「寺崎さんから具体的な減紙要求はなかった」と主張。

寺崎さんが借金を重ねて、過剰な仕入れをしていたのは、同業者に対する見栄や実績不足による「改廃」(解約)を避けるための自発的なものだったとの見解を示していた。

では、裁判所はどんな理由から、新聞社の強制を認定したのだろうか。

●新聞社の独断で「供給減」が意味するもの

今回の押し紙認定の大きな決め手になったのは、佐賀新聞による「一斉減紙」だ。

同紙は、2009年から2016年にかけて、販売店と協議することもなく全販売店への供給部数を減らしていた。

2009年当時、佐賀新聞の発行部数(ABC部数)はおよそ14万2800部だが、この一斉減紙により、7年間で合計1万1000部ほどの供給が止められたと認定されている。

▼一斉減紙の実施タイミングと数
2009年2月:1491部
2010年3月:1148部
2013年3月:1743部
2014年4月:2965部
2016年2月:3608部

しかし、段階的にせよ、これだけの部数を一方的に減らしても、新聞が不足する販売店はなかったのだそうだ。

●「一斉減紙」なのに「ABC部数」はさほど減らない

加えて、販売店は佐賀新聞と協議のうえ、3月の部数をもとにして、必ずプラスとなる新年度の部数目標を設定することが求められていた。

一斉減紙が実施されているように、新聞離れの中、困難が予想されるところだが、各販売店はその目標をかなりの度合い達成している。

具体的にいえば、佐賀新聞は7年間に約1万1000部を一斉減紙しているにもかかわらず、この間のABC部数は約9000部しか減っていない(一斉減紙直前の2009年1月の発行部数は14万2782部、最後の一斉減紙直後の2016年3月は13万3916部)。

つまり、販売店と購読者の関係でみると、見かけ上は新たに2000部増えているのだ。

▼佐賀新聞のABC部数推移
2009年:14万1608部(前年比-500部)*
2010年:14万0505部(前年比-1103部)*
2011年:14万0628部(前年比+123部)
2012年:14万0787部(前年比+160部)
2013年:13万9547部(前年比-1241部)*
2014年:13万7797部(前年比-1750部)*
2015年:13万7211部(前年比-586部)
(年間平均、小数点第1位を四捨五入/*は一斉減紙の年)

マイナスの年の方が多いが、裁判所は平均すると補助金が減らない程度の値になっていることを指摘している

販売目標をめぐっては、別の店舗(小城販売店)からの430部の減紙要求を佐賀新聞が認めず、契約更新を拒んだこともあった(2019年12月に和解)。ちなみに、この事件を担当したのは、寺崎さんと同じ弁護団だ。

●「佐賀新聞の拘束があったとみるほかはない」

裁判所はこれらの事実から、各販売店の仕入れ部数と、実際の購読者数との間にはかなりの乖離があると判断。販売店に経営を圧迫するほどの残紙があることを佐賀新聞も把握していたとして、以下のように判示している。

「販売店が購読部数に応じた部数を注文することができるのであれば、被告が販売店の救済のために一斉減紙を実施する必要はない。販売店の注文部数には、被告による拘束があったとみるほかはない」

「被告の行為は、原告を含む販売店の経済的利益を犠牲にして、自身の売上げを増加させるとともに、ABC部数を増加させることによって広告収入を増加させることを意図したものと認められる。これは、社会通念上許容されない行為であり、原告の権利を侵害するものであるから、不法行為に該当する」

広告料の基準にもなるABC部数は、新聞社の自己申告によるが、正しい数かどうかを確認するため、日本ABC協会が2年に1度、新聞社や販売店を調査しに来る。

ところが判決では、佐賀新聞の社員による販売店主を対象とした研修で、

「本来は存在しない読者を書き込んで購読者数を水増しすることを教示した」

「販売店に大量の残紙があることを発覚させないための指示であったとみるほかない」

など、不正な指示があったことも認定している。

敗訴判決を受け、佐賀新聞は「事実誤認がある」として、早々に控訴する意向を示している。確かに、このロジックが確定してしまうと、ほかの多くの販売店でも、押し紙があることになってしまう。

●「押し紙」のおかげで折込広告収入は増える

さて、こうして認定された押し紙の仕入れ代は、約2100万円となった(時効により提訴を起算日として3年分に限定)。

裁判所はここから、損益相殺として、押し紙によって得られた補助金と折込広告料を差し引くべきとしている。

補助金とは新規契約などにともない、新聞社から支払われるものだが、寺崎さんの店の場合、差し引く金額はゼロだった。

折込広告料については、折込収入と部数から、折込単価を求め、押し紙分を約1130万円と認定した。

この約970万円(2100万円-1130万円)に1割の弁護士費用を足した約1070万円の支払いが佐賀新聞に命じられている。

●詐欺的行為の「共犯」に

押し紙で水増しされた部数をベースに折込広告料を設定しているとしたら、配られない広告が出てくる。つまり、クライアントをだましていることになる。

「詐欺的行為ですから、本当に申し訳なかったです。一方で、押し紙にともなう広告がなければ、販売店の経営がもたない。

読者を増やして正当な形に近づけようと努力もしました。ただ結局、読者が増えても、目標部数を増やされるだけなので、押し紙は減らないんです」(寺崎さん)

寺崎さん(2018年11月1日、衆議院第二議員会館、編集部撮影)

広告といえば、すでに述べた通り、新聞の紙面広告料も部数と連動する。判決を前提にすれば、販売店を「共犯」に仕立てることで、部数収入と紙面広告収入を確保しようとする新聞社の姿勢が読みとれる。

なお、折込広告料ほしさに、販売店自ら余分な新聞を仕入れることがある。この場合は、「押し紙」ではなく、「積み紙」や「抱き紙」と呼ばれる。

しかし、これが成立するのは、新聞社に払う余計な仕入れ代よりも折込広告収入や補助金が多い場合だ。現在は折込広告料も減ってきているとされる。

寺崎さんの店でいえば、佐賀新聞の仕入れ代は1部1692円。一方、折込広告料は700円~1000円台。つまり、仕入れが増えるほどマイナスになり、「積み紙」をする経済的合理性がない。

だますという意味ではそもそも、折込広告は基本的に仕入れ数をベースとして、折込会社(新聞社の関連会社が多い)を介して決まる。販売店から「折込広告を何部ほしい」というわけにはいかない点にも、留意が必要だろう。

●「押し紙問題に影響大」

判決を受けて、販売店側の弁護団長・江上武幸弁護士は次のような談話を発表した。

「新聞本社の意向に逆らえず大量の押し紙を購入させられている販売店にとって、押し紙返上に勇気と希望を与えられた名判決であり、全国的にもその影響は非常に大きいと考えます」

今後、佐賀新聞が控訴し、第2ラウンドに進むとみられる。このまま確定すれば、他紙にも飛び火する可能性はさらに高くなるだろう。押し紙問題をめぐる重要事件として、いっそうの注目を集めそうだ。

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