グリーがDeNAを相手取り、DeNAが運営する携帯電話向けゲーム「釣りゲータウン2」(2009年配信開始)はグリーが運営する「釣り★スタ」(2007年配信開始)を真似たものであり著作権侵害にあたるとして訴えた裁判について、決着は最高裁判所に持ち越されることになった。
この裁判の主な争点は、「釣りゲータウン2」のゲーム中で魚を釣り上げる際の画面や操作手順が「釣り★スタ」のそれと類似しており、先にサービスを開始している「釣り★スタ」のこれらの画面や操作手順が、著作権法による保護の対象となる「表現上の創作性」にあたるかどうかということだ。
東京地方裁判所での一審では、「釣り★スタ」の水中に三重の同心円を描いて魚の影が動き回るようにした構図は、他の携帯電話向けの釣りゲームにはない個性だとして、「釣りゲータウン2」は著作権侵害にあたるとされ、DeNAにはグリーへ損害賠償金2億3460万円を支払うこと、および「釣りゲータウン2」の配信を差し止めることが命じられた。
しかし8月8日の知的財産高等裁判所での二審判決では、「釣り★スタ」の構図は射撃やダーツなどの応用であり、ゲームの操作手順も実際の釣り人の行動にあわせたもので、ありふれた表現にすぎず創作性はないと判断され、一審の判決を取り消す逆転判決が下されたのである。
グリーは二審の判決を不服として最高裁に上告したが、はたしてグリーが主張するようにゲームの操作手順や画面の構図は「表現上の創作性」にあたるのだろうか。著作権問題に詳しい福井健策弁護士に聞いた。
●ありふれた表現やアイディアは著作権侵害の対象にならない
「著作権とは、『創作的な表現』を守る権利です。ですから、人の作品との類似を検討する際にも、先行作品の創作的な表現を借りたか否かがポイントになります。」
「たとえば、(1)創作性のない『ありふれた表現』、(2)具体的な表現の背景にある『アイディア』などは著作権では守られず、よって人の作品から『ありふれた表現』や『アイディア』を借用するだけならば、著作権(翻案権)侵害にはなりません。そう考えないと、私たちは先人の作品を参考にして新たな作品を作ることができず、かえって文化は停滞しかねないからです。」
●ゲーム業界にはお互いの表現を取り入れあってきた歴史がある
「今回の訴訟で知財高裁は、まず、(1)『魚の引き寄せ画面』に注目しました。『三重の同心円』『黒色の魚影と釣り糸の表現』などの各要素について共通点は認めつつも、それらは他の釣りゲームにも見られ、ありふれている、射撃やダーツから応用したアイディアに過ぎない、相違点も多い、などの理由で類似性を否定しています。次いで、(2)『主要画面の移り変わり』についても、実際の釣り人の一連の行動と同じ順番で、ありふれているなどと判断。結局、全体の類似性を否定しました。」
「『アイディア勝負』であり、表現の幅に物理的制約のあるソーシャルゲームの特質を踏まえて、グリー側に厳しい判断を下した判決とも言えるでしょう。それはまた、お互いの表現を取り入れあって来たゲーム業界の歴史にも、多かれ少なかれ影響を受けた判決でもありそうです。」
グリーとDeNAはともに携帯電話向けのソーシャルゲーム事業にて目覚しい飛躍を遂げてきたが、とりわけ釣りゲームは人気が高く、両社にとって重要なコンテンツであるだけに、どちらも一歩も引く構えを見せていない。
福井弁護士の指摘する通り、ゲーム業界には他のゲームの表現を取り入れあって発展してきた歴史があるだけに、最高裁の判決でどこまでが「表現上の創作性」と判断されるのだろうか。ゲーム製作者からユーザーまで、非常に多くの関心が集まりそうだ。