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地方の土地の3割弱、所有者不明の可能性…なぜ相続登記がされないのか?
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地方の土地の3割弱、所有者不明の可能性…なぜ相続登記がされないのか?

法務省は6月はじめ、相続登記されずに所有者が分からなくなっている土地について、初の実態調査の結果を公表した。

調査対象は大都市や中山間地域など全国10か所、約10万筆の土地。最後に所有権が登記されてから50年以上経過しているものが、大都市で6.6%、中都市・中山間地域で26.6%だった。経過年数が長いほど、所有者が不明になっている可能性がある。

所有者不明の土地について、どう対応していくべきなのか。所有者不明の土地問題に詳しい辰田昌弘弁護士に聞いた。

●土地の所有者不明、どんな問題が発生する?

ーー土地の所有者が不明だと、どのような問題が発生するのでしょうか

所有者不明の土地が増加すると、社会全体に大きな問題が発生します。所有者がいないわけですから、土地が利用されることも有効活用ができる先に譲渡されることもありません。地域開発や集約化をしようとしても、所有者不明の土地のために事業が進みません。

何の価値も生み出さないまま放置され、土地という資源を無駄にすることはわが国の経済にとって大きなマイナスです。

ーー不明な土地の中には、森林や農地もあるようです

特に、国土面積の大半を占める森林や農地について所有者不明で管理がされなくなると、木材・農産物を失うだけでなく、国土が荒れ果てていくことになり、環境や生態系にまで影響が出ます。

さらに、東日本大震災の復興の際にも所有者不明の土地が支障になりました。それは震災で亡くなられた方の土地ということではなく、以前に所有者が不明になっていた土地でした。

先日の報道によると、所有者不明になっている可能性がある土地の面積が九州より広い約410万ヘクタールに達すると推計されているそうです。所有者不明の土地が増大してくると、資源の有効活用、地域再生、国土保全、環境、震災復興などで、私たちの社会にとって大きな問題となるのです。

●「土地を取得したくない」という相談が増えている

ーー今回の調査結果について、どのように感じましたか

今回の調査結果により、予想以上に深刻な現実が突きつけられました。人口構成からして今後20 年の間に急激に所有者不明土地が増加するでしょう。今の制度のままですと、とてもくいとめることはできません。

弁護士の仕事をしている中でも「土地を取得したくない」という相談が増えています。「管理できないので、ただでも要らない」「相続財産はその負担となる土地建物だけなので相続放棄をしたい」「土地は不要なので自治体に寄付はできないのか」というようなご相談です。

いわゆるバブルの頃と同じ国だとは思えません。このようなことからも、今後ますます所有者不明土地が増えていくだろうと実感できます。

ーーどのように解決ができるのでしょうか

この問題を法律的に考えるならば「所有権の制限」「所有権は放棄できるのか」「所有権に伴う責任」というような難しい問題に行き着いてしまいます。そのため、法律を一つ作れば解決できるというような簡単な問題ではありません。

私は、この問題について地域での取り組みが何より重要だと考えます。その土地を必要とし、有効利用できるのはその地域の人々です。所有権だから外部の者は一切、手がつけられないというのではなく、利害関係がある地域の人々で利用できるような仕組みが必要なのではないでしょうか。もっとも、その地域自体が衰退しているという問題が別にあるのですが。

●なぜ相続登記は進まない?

ーー相続登記がなかなかされずに放置されている理由は

相続した土地なのに相続登記がされず、亡くなった方の名義のまま放置されている理由としては、次のようなものが考えられます。

(1)「権利に関する」不動産登記は法律上義務ではない

(2)「田舎の実家」に子どもは愛着を持たない

(3)登記名義人になると抱える問題

(4)登記手続き費用がかかる

ーーそれぞれについて教えてください。

まず(1)について、です。相続登記のような「権利に関する」不動産登記を行うことは、法律上義務とされていません。そのため、相続ができたということでホッとしてしまい、登記は売却や担保設定で必要になるまで後回しにされがちです。そしてそのうち忘れ去られます。

登記制度全体にかかわりますので「それなら義務化をすれば良い」という問題ではないのです。なお、農地法や森林法では「所有者変更届出」という制度がありますが、こちらもなかなか届出はされていないようです。

ーー(2)の理由については、身に覚えのある人も多そうです

放置される典型的ケースは「若いときに都市部に出てきた親の実家」です。そのような実家は親には愛着があっても、都市で生まれた子どもたちにはそこまでの愛着はありません。

親から相続をしても自分たちの財産だという意識を持つことができません。その結果、登記はもちろん管理も放置されるということになっていきます。祖父母の名義のままの場合や、過疎化が進み価値がない地域の不動産ならなおさらです。

ーー(3)登記名義人なると、どんなトラブルに巻き込まれる可能性があるのでしょうか

登記名義人に固定資産税が課税されることも理由でしょう。同じことが、不動産に管理の負担が発生する場合にも言えます。登記名義人になると、課税、地元での各種協力、草刈り、老朽化建物の取り壊し、境界の争いなど面倒なことに巻き込まれるという負担です。相続人の誰もがそのような負担をしたくないために、放置という方向に流れていきます。

ーー(4)については、負担も大きそうです

登記手続費用の問題もあります。最初の相続登記が放置されているうちに、次の相続登記が発生するなどして相続関係が複雑になると、その分手間と費用も増大することになります。特に法定相続分と異なる相続登記をしようとすれば、会ったこともないような何人もの遠縁に遺産分割協議や登記協力のお願いをしなければならずたいへんな負担になります。

相続登記がされない理由には以上のようなものが考えられます。いずれもそれなら無理もないと思われる理由です。相続登記がされるようにするためにはこのような問題を解消する発想の転換が必要です。

●今後どうしていくのか?

ーー所有者不明の土地を減らすために、どうあるべきなのでしょうか

現時点でも、所有者不明の土地は、九州より広い面積があると予想され、今後激増する問題に現状の制度で対応することは不可能です。新たな法律、制度が不可欠です。どのような法律、制度が望ましいかについては簡単な問題ではありませんが、個人的には次のような方向が妥当ではないかと考えています。

まず、たとえ新しい法律や制度でも、国や自治体が、所有権という重要な権利を「登記を見ても所有者がわからない」という理由だけで奪ってしまうことはできません。ここは動かせないでしょう。

他方、土地はそれだけが独立しているのではなく周囲の環境と一体となっていますので、地域での利用・保全が不可欠です。過疎化が進む地域再生、環境保全、震災復興対策のために土地が地域で有効活用される必要があります。

ーー具体的に、どのような方法が考えられるでしょうか

この両方の要件を満たすためには、所有権という権利はそのまま残しつつ、所有者不明土地については別の主体が管理する方法が考えられます。報道では自治体が管理をするという方法が検討されるようですが,国や自治体ではなく地域ごとに設立する機関のようなところで管理する方法も考えられます。もちろん問題不動産ばかりかかえることにならないかなどの問題はあるでしょうが、所有者に代わって管理をしていく主体がどうしても必要です。

所有権放棄が認められず、地元自治体も土地の寄付を拒否する現状では、そのような機関に不要土地を寄付できるような仕組みがあれば利用されるのではないでしょうか。地域と協力した大きな観点からは、管理する土地が地域に新たな利益を与えることも期待できます。

もう1つは、登記制度の見直しです。死亡時の手続を一括して行うことができる窓口を設けている役所がありますが、そのように安価・簡便に相続登記ができる仕組みを整え、さらに相続登記をした方が有利になるようなインセンティブを与えることが必要でしょう。

難しい問題ですが、土地という資源は環境保護も含めて有効に活用し続けなければなりません。新しい取り組みに期待します。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

辰田 昌弘
辰田 昌弘(たつだ まさひろ)弁護士 辰田法律事務所
平成元年、大阪弁護士会登録。大阪市立大学法科大学院 非常勤講師。摂津市行政不服審査会委員。平成26年度まで「一般財団法人大阪府宅地建物取引士センター」宅地建物取引士法定講習講師。

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