購入した物件が購入後に元ゴミ屋敷とわかり困っているという相談が、弁護士ドットコムに寄せられています。
相談者は学習塾を開くために、道路に面した一室に入居したそうです。購入前、相談者は内見をした際に「排泄物の臭いなどがかなり気になる」と管理会社に伝えたそうですが、管理会社は「普通の60代の一般男性が住んでいた」と説明したようです。
購入した後になって、相談者はその物件が元ゴミ屋敷だったと知ったようです。相談者は、以前の部屋を知っている人たちには、学習塾のイメージがとても悪くなるのではないか、と心配しています。
ゴミ屋敷だった場合、管理会社には現状回復をし、次の住人が不自由なく過ごせるような状態まで整える義務はないのでしょうか。また、管理会社や不動産業者に、以前はゴミ屋敷であったことを入居前に告知する義務はないのでしょうか?瀬戸仲男弁護士の解説をお届けします。
●業者側には重要事項を説明する義務がある
——購入時には片づいていたようですが、もし片づいていなかった場合はどうすればよいでしょうか。
契約条項に、売主に対してごみを片づけてから引き渡すように請求できる内容が盛り込まれているはずですので、片付けが完了するまで代金の支払いをストップしましょう。
——ゴミ屋敷の場合、管理会社には次の住人が不自由なく過ごせるような状態に整える義務などはないのでしょうか。
建物をリフォームしてよい状態に復元するかどうかは売主の判断次第です。一般的にゴミ屋敷のまま購入を希望する人は少ないと思われますので、通常ならリフォームを実行することになるでしょう。
その場合、リフォームするのは、管理会社ではなく、あくまでも所有者(売主)です。したがって、管理会社には現状回復をし、次の住人が不自由なく過ごせるような状態まで整える義務はありません。
——「元ゴミ屋敷」の場合でも、においの問題やゴミ屋敷だったという事実には頭を悩ませそうです。
においが残っていることや以前はゴミ屋敷だったことについても、不動産会社側(販売の仲介会社、あるいは売主である不動産会社)は、事実関係を調べたうえで、購入者に対して説明する義務があります。
宅地建物取引業法(宅建業法)の規定によって、不動産会社(宅建業者)には物件についての説明義務を課されている点が重要です。これを「重要事項説明義務」といいます。
物件(建物)に通常とは異なる「におい」がある場合には、その事実を買主に説明しなければなりません。
また、たとえば、購入物件で過去に人が異常死したという事実があった場合、買主は大いに気になるものです。このような人の気持ちに影響を与えるマイナスの要素を「心理的瑕疵」と言います。この心理的瑕疵についても、重要事項説明書で説明すべきとされています。
——説明義務を果たさなかった場合、不動産会社には何かペナルティがありますか。
不動産会社がこの説明義務に違反して、建物のマイナスポイントを説明せずに業務を行った場合、宅建業法違反となります。宅建業者としての免許停止や、悪質であれば宅建業法上の罰則を科されることにもなりかねません。
また、説明義務違反が重大である場合、単に宅建業法違反というだけでなく、刑事責任(詐欺罪など)にも問われる可能性があります。
今回のケースとは異なりますが、たとえば、事故物件において、その事故の内容(自殺なのか、他殺なのか。他殺の場合、被害者の人数は、殺害方法は残忍なものかなど)、物件の規模、用途、売買金額などについては、しっかりと説明を果たすよう十分に注意する必要があります。
●損害賠償請求や契約取り消しが可能なことも
——相談者はすでに物件を購入済みです。事前の説明が足りなかったことについて、責任を追及できますか。
前述のとおり、仲介の不動産会社には「重要事項説明義務」があります。説明義務の内容としては、端的にゴミ屋敷だった事実を重要事項説明書の特記事項に明示して、説明することになります。
もし説明義務違反があったといえる場合には、その責任(損害賠償請求)を追及することが可能です。
——相談者は開くつもりの学習塾経営に懸念をもっているようです。「こんな物件だとは思わなかった」として、購入を取り消すことなどはできますか。
もし、相談者が「学習塾を開くために購入すること」を売主に対して表示しており、その事実が「行為の目的および取引上の社会通念に照らして重要」であるものと判断される場合には、相談者は売主に対して「錯誤」を理由に売買契約を取り消すことができます(民法95条)。
学習塾の場合、子どもを排泄物のにおいがする学習塾に通わせることに反対する保護者がほとんどでしょうから、購入者にとって、排泄物のにおいの問題は塾経営における重要な問題です。錯誤による取り消しが認められる可能性もありそうです。