大学生のモモカさんは、家から大学まで片道2時間30分ほどかかるため、大学の近くに一人暮らしをすることに決めた。ネットの賃貸情報サイトを見てみると、学生向けの家賃が安いマンションやアパートが複数あることが分かった。
その中でもとびきり安く、間取りや設備も希望にあった完璧な物件を発見し、モモカさんは不動産屋に足を運んだ。しかし、店員に「この物件はもう埋まってしまいました。ネットに載せている物件は即埋まってしまうんですよ」と説明されたという。
結果的に、モモカさんは最初に興味を持った物件よりも家賃が5000円ほど高い物件に入居を決めた。「最初に興味を持った物件よりもきれいだし、家電家具つきなんですよ。そう考えれば安いかな」と満足している。
しかし、未だに「あの物件は本当にすぐ埋まってしまったのだろうか。おとり物件だったのではないか」とモヤモヤすることがあるという。今回の事例が「おとり物件」がどうかは不明だが、そもそも「おとり物件」は法的に問題ないのだろうか。弁護士に聞いた。
●交通費を損害として請求することが可能な場合も
ーー「おとり物件」を表示することは違法なのでしょうか
「いわゆる『おとり物件』を表示することは、景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)第5条3号およびそれを受けた告示である『不動産の表示に関する公正競争規約』第21条にも違反します。さらに、宅地建物取引業法第32条にも反します。
これらの違反に対し、おとり物件を表示した不動産屋(宅地建物取引業者)に対する罰則は定められていますが、不動産屋に対して損害賠償を請求するためには、おとり物件の表示によって実際に損害が発生したということが必要になります」
ーー結果的にモモカさんは最初に興味を持った物件よりも満足のいく物件に出会えたようですが、おとり物件に出会い「騙された」と思う方も少なくないようです。このような場合、不動産屋に出向いた交通費などを請求できるのでしょうか
「最終的には『おとり物件』とは別の物件を契約した場合でも、契約物件が妥当なものであれば、損害が発生したとは言えず、損害賠償の請求は難しいでしょう。
しかし、『おとり物件』であれば契約した可能性が高く、かつ結局その不動産屋で別の物件も契約しなかった場合には、交通費を損害として請求することは可能と思われます」
●「おとり物件」を見分けるポイントは?
ーー物件を選ぶ側はどのようなことに気をつけるべきでしょうか
「『おとり物件』を見分けるポイントとしては、(1)近隣相場と比べて相当好条件(家賃が低いなど)である、(2)物件の現地待ち合わせで内見ができない、(3)表示されている建物、住所が存在しない、(4)好条件にもかかわらず同じ物件広告が長期間表示されている、が挙げられます。
客側が『おとり物件』であると証明するためには、前記(1)ないし(4)の事情を挙げたり、不動産屋に対して『おとり物件』についての実際の成約日を明らかにするよう求めたりすることが考えられるでしょう」