もはや「ブーム」という言葉が似つかわしくないほど、ペットは社会に定着した。内閣府が2010年に行った調査では、約3分の1が「ペットを飼っている」と回答。なかでもダントツ人気のペットは「犬」で、うち58.6%に及んでいる。
犬と言えばワンワン……というぐらい、よく吠えるのが特徴だ。これは飼い主だけでなく、隣人にとっても悩みの種で、「裏の家の犬が朝から晩までことあるごとに吠え、窓を締めても鳴き声が響いてよく寝られない」といった相談がネット上にもあふれている。
この相談のように「うるさすぎる犬」の飼い主に対しては、法律に基づいて何らかの対処を要求することができるのだろうか。ペットにまつわるトラブルにくわしい桑田英隆弁護士に聞いた。
●まずは飼い主と話し合い、適切な「しつけ」をしてもらうべき
「ペットの飼育が完全に定着した現在では、ペットにまつわる近隣トラブルも増加しています。しかも、常に顔を合わせる可能性がある隣人が相手なので、感情的な対立は避けたいところです。
そのため、まずは当事者同士で話し合い、飼い主にしつけなどの対応をとってもらうことが適切です。分譲マンションでのペットトラブルでは、理事会に間に入ってもらう方法もあります」
しかし、なかには相手と直接、顔を合わせたくないような場合もあるだろう。公的に対処してもらう方法はあるのだろうか?
「動物愛護法(動物の愛護及び管理に関する法律)9条は『地方公共団体は……動物が人に迷惑を及ぼすことのないようにするため……動物の所有者……に対する指導をすること……その他の必要な措置を講ずることができる』と規定しています。
そこで、お住まいの地方公共団体に、飼主への指導等を要請することが考えられます」
●慰謝料の支払いや「飼育禁止」を裁判で要求できる場合もある
残念ながら、そうしたお願いや指導などが実を結ばない場合は、「裁判」も考えられるのだろうか。
「それでも効果がない場合には、不法行為に基づく損害賠償を請求することが考えられます。
飼主は、隣人に迷惑を及ぼさないように、日常のしつけをするなど、飼育上の『注意義務』を負っているからです。
一方、隣人も一定の『受忍義務』を負います。損害賠償請求は、この受忍限度(がまんしなければならない限界)を超えた場合に、はじめて認められます」
ペットの鳴き声が、受任限度を超えてあまりにうるさい場合、飼い主に慰謝料を要求できるということだ。桑田弁護士はさらに続ける。
「また、飼育の方法や鳴き声の異常性が極めて強い場合には、飼育禁止の請求を起こすことも不可能ではありません。
分譲マンションでは、管理規約でペットの飼育方法を規定する例がありますが、近隣に迷惑をかけ、理事会から飼育を禁止されたにもかかわらず、犬の飼育を継続したようなケースでは、管理組合が犬飼育禁止請求の裁判を提起できる場合があります」
限定的ではあるが、裁判では、飼い主に「犬を飼うな」と要求できるケースもあるようだ。飼う側としてみれば、万が一にもそんなことにならないよう、愛情を持ってきちんとしつけを行うべきといえるだろう。