弁護士ドットコム ニュース
  1. 弁護士ドットコム
  2. 不動産・建築
  3. 近隣トラブル
  4. ダイヤモンド・オンライン連載企画/マンションのお隣さんが"反社"だったら?
ダイヤモンド・オンライン連載企画/マンションのお隣さんが"反社"だったら?
ダイヤモンド・オンライン連載企画

ダイヤモンド・オンライン連載企画/マンションのお隣さんが"反社"だったら?

本連載第8回に引き続き、反社会的勢力との対応について、押さえておきたい法律知識をお届けする。今の反社会的勢力は、いわゆるヤクザ映画に出てくるような風体ではないことが多い。一見すると、エリートビジネスマンにしか見えないという話も聞く。だからこそ、気づかないうちに自分の生活圏内に反社会的勢力が忍び寄っているということも多いのだ。自分が所有するマンションの借り主や、たまたま入居した賃貸マンションのお隣に引っ越してきた人が反社会的勢力だったら、あなたは不安で夜も眠れないだろう。そんなとき、あなたはどのように対処したら良いのだろうか。

●普通の企業や人のように生活に忍び寄る反社会的勢力

「先月、都内にあるワンルームマンションの1室を父から相続しました。この部屋は、父が株式会社A企画という法人に居住用(社宅)として賃貸していたのですが、管理会社から、最近、強面の暴力団員風の男が出入りしていると連絡がありました。このままでは、今後、暴力団事務所として使用されてしまうのではないか、また、暴力団の抗争事件に巻き込まれ近隣トラブルに発展しないか、非常に不安です」

 最近、このようなご相談が増えています。

 平成22年4月1日以降、各県で順次暴力団排除条例が制定・施行されました。平成23年10月1日には東京都と沖縄県で施行され、全国の都道府県すべてで暴力団排除条例が制定・施行されるに至りました。

 これら暴力団排除条例では、暴力団事務所を新たに開設されないようにするための条項が含まれています。

 たとえば、東京都暴力団排除条例では、学校等の周囲200メートルの区域内において、暴力団事務所を開設、運営することを禁止しています(22条)。また、不動産の譲渡または賃貸をする場合、契約書に暴力団事務所としての使用を禁じるという特約および暴力団事務所として使用されていることが判明した場合には、契約の解除等できるという特約を設けることが求められています(19条)。

 これにより、暴力団や暴力団員等が、暴力団事務所として使用する目的で、マンション等の不動産を借りることは、事実上困難になり、暴力団や暴力団員等は、自らをあたかも普通の企業であるかのように装うようになりました。

 このように、暴力団や暴力団員等の反社会的勢力は世間に気づかれないように一般社会に忍び込み、みなさんの近くに潜んでいるのです。

●賃貸人と賃借人の信頼関係が破壊されていれば契約解除可

 では、先の相談事例のように、知らないうちに反社会的勢力と賃貸借契約を結んでしまったような場合、どのように対応すれば良いのでしょうか。

 まず、本件マンションが、実際に暴力団事務所として使用されている場合、使用目的違反を根拠に解除することが可能でしょう。すなわち、本件マンションは、居住用として貸していますから、これを無断で暴力団事務所として使用することは、使用目的違反となります。

 なお、賃貸借契約のような継続的契約を解除するためには、賃貸人と賃借人との間の信頼関係が破壊されていると評価できることが必要です。居住用のマンションを事務所として使用する行為は、特段の事情がない限り、信頼関係が破壊されていると評価されるのが通常です。

 また、株式会社A企画が、賃貸人に無断で反社会的勢力に転貸しているような場合であれば、無断転貸を根拠に解除することが可能です。

●もし問題行動がない反社会的勢力だったら?

 では、本件の事例と異なり、反社会的勢力が、平穏に住居として使用している場合に、賃貸借契約を解除して、明け渡しを求めることはできるのでしょうか。

 たとえば、賃借人が暴力団員であるものの、賃借人である暴力団員以外の者が出入りしているといった事情もなく、毎月の賃料を約定通り支払って、特段の問題行動なく、通常の住居として使用しているような場合です。

 賃貸借契約を解消するためには、・合意に基づく契約解除、・債務不履行に基づく解除、・期間満了に基づく契約終了、・約定に基づく解除の4つの場面が存在します。

 このうち、・合意に基づく契約解除は、そもそも賃借人である暴力団員が契約解除に同意することが必要です。当該暴力団員が平穏に住居として使用している以上、同意してもらうことは難しいでしょう。

 また、・債務不履行に基づく解除も、賃料の未払や用法義務違反等がない以上、賃借人が暴力団員であるというだけでは、債務不履行とはいえず、解除することはできません。

 さらに、・期間満了に基づく契約終了の場合であれば、賃貸借契約を終了させることができるのではないか、と思われる方もいるかもしれません。

 しかし、現在の我が国の法制下では、賃貸借契約期間が満了したとしても、容易に契約を終了させることはできません。すなわち、建物の賃貸借について期間の定めがある場合、相手方に対して更新をしない旨の通知または条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされます(借地借家法26条1項)。

 そして、更新をしない旨の通知または解約の申し入れをするためには、正当の事由が必要です(借地借家法28条)。そして、正当の事由の有無は、建物の賃貸人および賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況および建物の現況等を勘案して判断されます。

 そうすると、暴力団員であるというだけで、特段問題行動がなく、賃貸人に建物を使用する必要性がないような場合には、正当の事由が存在しないと判断される可能性が高いです。

 そして、これは・約定に基づく解除、たとえば、「相手方に対し、6ヶ月以上の予告期間をもって、本契約の解約を書面により申し入れることができる。」との規定が存在した場合も同様です。

●賃貸借契約書内に暴力団排除条項は必須

 このように、特段問題行動がなく平穏に住居として使用している場合、暴力団員であるというだけで、賃貸借契約を解消することは困難です。

 そこで、賃貸借契約書には、必ず暴力団排除条項を設け、相手方が暴力団員等である場合は、そのことだけで契約を解除できるようにしておくことが重要です(なお、国土交通省が、賃貸借契約に関する暴力団排除条項例を公表 しています。)。

 そして、暴力団排除条項を導入すべきことは、賃貸借契約にとどまりません。

 かつては、覚醒剤取引や、暴行・恐喝といった粗暴犯が中心でしたが、近年は、株式会社やNPO法人を利用して、一般の経済取引に紛れていることも珍しくありません。

 違法・不当な資金獲得活動を行う等、通常の民事事件との区別がつきにくく、反社会的勢力と気が付かずに取引関係を構築してしまうことも十分考えられます。そのような場合に、契約書に暴力団排除条項があれば、速やかに関係を遮断することができます。

 また、近年の暴力団員等の検挙人数は、詐欺や文書偽造、街宣活動による名誉毀損等の、暴力を伴わない犯罪類型の割合が増加しているといわれています。

 実際、障害者雇用促進を標榜するNPO法人から多額の寄付を求められたといった事案や、助成金の不正受給疑惑に回答せよといって街宣活動を行われたといった事案もあるようです。

 反社会的勢力は、多額のお金が動く場面や他人の弱み・スキャンダルを虎視眈々と狙っています。そのため、反社会的勢力は、縁遠いものではなく、自分が関係を持ってしまう可能性、そしていつ反社会的勢力の被害にあうかわからないと常に意識しておくことが重要です。

 最後に、一旦、反社会的勢力であることが判明した場合には、暴力団排除条項等を活用し、速やかに関係を遮断しなければなりません。そして、反社会的勢力に対する対応において、もっとも大切なことは、正当な手段で毅然として対応する、ということです。

 早期に、警察、各都道府県の暴力追放運動推進センター、各地の弁護士会等に相談し、その援助を受けることが、反社会的勢力に関する問題を解決するための一番の近道といえます。

プロフィール

國安 耕太
國安 耕太(くにやす こうた)弁護士 ノースブルー総合法律事務所
2002年早稲田大学法学部卒業。07年中央大学法科大学院修了。08年弁護士登録。2010年中央大学法科大学院実務講師(現任)。11年中央大学法学部兼任講師(現任)。13年ノースブルー総合法律事務所開設、代表弁護士に就任。14年15年財務省税関研修所委託研修講師(知的財産法)、大田区法律相談員。第一東京弁護士会民事介入暴力対策委員会委員、総合法律研究所(知的所有権法)委員

編集部からのお知らせ

現在、編集部では正社員スタッフ・協力ライター・動画編集スタッフと情報提供を募集しています。詳しくは下記リンクをご確認ください。

正社員スタッフ・協力ライター募集詳細 情報提供はこちら

この記事をシェアする