派遣型マッサージ店の女性従業員に乱暴したとして、俳優の新井浩文容疑者が2月1日、強制性交の疑いで警視庁に逮捕された。この事件を受けて、新井容疑者がこれまで出演したテレビ番組や、公開予定の映画が「お蔵入りするのではないか」と話題になっている。
●「容疑を一部否認している」
報道によると、新井容疑者は2018年7月、東京・世田谷の自宅マンションで、派遣型マッサージ店の女性従業員(30代)に性的暴行を加えた疑いが持たれている。警察の取り調べに対して、新井容疑者は、容疑を一部否認しているという。
新井容疑者は、北野武監督の『アウトレイジ ビヨンド』や、NHK大河ドラマ『真田丸』などに出演し、実力派俳優として人気を博していた。今年公開が決まっていた出演映画『台風家族』は公開延期となり、『善悪の屑』もお蔵入りが懸念されている。
また、NHKは2月4日、新井容疑者が出演した10番組について、有料動画サービス「NHKオンデマンド」での新規の配信を停止した。こうした状況から「違約金は数億円になる」という説も報道されている。
一方で、殺陣師で、映画監督の高瀬将嗣さんはツイッター上で、「新井浩文逮捕を受けた映画『台風家族』公開延期に反対。作品は逮捕前の撮影。ましてや現段階では容疑者で、推定無罪」と投稿するなどしており、「お蔵入り」そのものが議論を呼びそうだ。
芸能事情にくわしい河西邦剛弁護士に聞いた。
●最重要ポイントは「暴行」や「脅迫」を立証できるか
――新井容疑者は容疑を一部否認していると報じられている。今後のポイントは?
検察が、強制性交の手段とした「暴行」や「脅迫」を立証できるかが、最重要ポイントになります。強制性交罪は密室でおこなわれるので、被害者の証言が何よりの証拠となります。
まず、被害者の供述が具体的で、事件以降そのストーリーが一貫していて変遷がないか。そして、この証言と矛盾のない証拠、すなわち新井容疑者がマッサージ店に予約した際の電話の履歴、被害者が新井容疑者の自宅マンションに出入りした際のエレベーターや周辺民家の防犯カメラ等が重要になります。
検察が、新井容疑者が否認したままでも有罪にできるだけの証拠がそろわなかった場合には、嫌疑不十分で不起訴処分となます。また、示談が成立した場合には起訴猶予処分となります。
仮に起訴されて、判決までに示談がない場合には、懲役3〜4年程度の実刑となる可能性があります。起訴後、裁判中に示談が成立した場合には、執行猶予付きの判決もありうるでしょう。
●新井容疑者の事務所は「1〜4億円」程度、請求される可能性
――違約金はいくらにのぼるのか?
ポイントは、映画が未公開で、かつ、新井容疑者の出演部分が多く撮り直しできないということです。報道によりますと、1作品あたり1億円程度の制作費用がかかっているということで、2作品で2億以上の損害が生じる可能性があります。
次に大きいのが、CMです、新井容疑者の場合、年単位で数百万から1千万前後の契約金だと思われますので、ここについては、残りの日数の日割計算で清算するのが通例です。
NHKオンデマンドなどのネット配信番組については、映画にしてもドラマにしても、すでに上映期間が終了しています。また、ドラマについても放送が終わっているとすれば、それぞれについて主な目的は達成できているといえます。
あとは、DVD販売やネット配信ができなくなったという程度の損害になります。ここについては1本あたり数十万から百万円程度ではないでしょうか。
このように合計すると、1億〜3、4億円程度になります。これらの金額は、新井容疑者の所属事務所に請求されることになります。
――そもそも「お蔵入り」しなくてよいのではないだろうか?
今回は新井容疑者が否認している状況下において、映画配給会社の自主的判断での「お蔵入り」というのがポイントです。
主演男優が逮捕されて、仮に実刑になったとしても、著作権法的には何も問題なく、映画は上映できます。特に不起訴になった場合、新井容疑者サイドに損害賠償請求をしたとしても、「それは自主的判断でしょ」と法的には損害賠償が認められず、0円という可能性もあります。