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2018年07月19日 09時36分

「明確な同意のない性行為はレイプ」スウェーデン新法、被害減少の期待と新たなリスク

「明確な同意のない性行為はレイプ」スウェーデン新法、被害減少の期待と新たなリスク
写真はイメージ(Zinkevych / PIXTA)

スウェーデンで7月1日、明確な同意のない性行為をレイプとみなすと定める新法が成立したことがAFPやCNNなどの海外メディアで報じられた。

従来、レイプは暴力や脅しを伴う性行為であると考えられていたが、この新法により、性行為に及んでいる当事者のうち、一方が自由意志で行為に参加していない場合などもレイプとみなされることになる。

新法は、性行為の際の言葉や身ぶり、その他の行為によって合意の表現が成されたか否かに注視して、判決を下すように求めているという。

日本では、レイプは刑法177条に規定されており、13歳以上の男女に対して「暴行または脅迫」を用いて性行為をした場合、また13歳未満の男女に対して性行為をした場合に強制性交罪が成立するとされている。

「#Me Too」運動が世界的に広まる中で成立したスウェーデンの新法だが、この法規制について、どのような論点が考えられるのか。松木俊明弁護士に聞いた。

●望まないセックスの被害者を減らす効果が期待される

この新法において最も意義がある点は、暴行または脅迫が用いられていない場合においてもレイプとして処罰の対象になる点です。これにより、例えばセクシャルハラスメント等の脅迫などを用いない、優越的な地位にあることを利用した性被害等を防ぐことが期待できます。

また、性犯罪はそもそも隠密に行われる類型の犯罪ですから、暴行や脅迫が行われたことの証拠が発見でき無いことも少なくありません。スウェーデンの新法では、検察官がこの点についての立証をしなくてもよくなるため、合意の無い性行為を行った犯人の起訴が容易になります。その結果、望まないセックスの被害者を減らす効果が期待されるところです。

さらに、スウェーデンの新法は、当事者同士が夫婦やパートナー関係(内縁、恋人関係等)にある場合でも、形式的には処罰の対象となり得ます。当事者同士の関係性については、考慮要素に留まります。

男女関係の法律相談を受けると、夫婦・パートナー関係が破綻しかかっている様な状況で、男性側が、パートナーに対して暴行・脅迫を用いないまでも、従前の事情や関係性、環境等を利用して、セックスを強いたというケースに出くわすことがあります。

このような場合でも、スウェーデンの新法においては、合意がなければ処罰の対象となるのです。そのため、別れたいと思っているパートナー等との望まないセックスを防ぐ効果も期待されます。

他方で、適法なセックスとなるために明白な合意が要求されることから、次のような問題点も指摘されています。

●(1)リベンジポルノの危険性が増す懸念

明白な合意については、当然それが自由意思に基づいてなされたものでなければなりません。しかし、合意に先立って、欺罔行為(あざむき、だますこと)が行われたり、暴行・脅迫が行われていれば、その合意は有効なものではなく、レイプが成立することになります。

そうなると、結局合意が有効か否かが争点になった場合には、現在の日本刑法と同じ様に、欺罔行為・暴行・脅迫があったことを検察官が立証することになります。

他方で、合意について、何らかの客観的な証拠が残されている場合(例えばスマートフォンのアプリケーションなどで合意を確認されていた場合等)、検察官の訴追にあたっての消極的な材料となる可能性もあります。

さらに、日本で発生している強姦事件等でもまれに見られるのですが、和姦(=同意があるセックス)であるかのように見せかける目的で、強姦をした犯人が、被害者に笑顔や同意する旨の発言を強制し、その様子を写真や動画で撮影するということがあります。当然、裁判所では、その写真や動画が存在するというだけで和姦であると判断することは無く、客観的な状況から暴行・脅迫の有無を判断します。

しかし、このような裁判所の判断過程があってもなお、写真や動画撮影がされている実態があることからすれば、スウェーデンの新法のように、明白な合意が必要となれば、その証拠を残すという名目の下で、強姦犯人が証拠を残そうとセックス及びそれに至る過程を録音、録画する等の危険性が指摘されています。その結果、リベンジポルノ等の危険性が増すことになります。

●(2)虚偽の性被害を訴えられるリスク

明白な合意が適法なセックスの要件とされる結果、セックス後の事情の変化等により「合意が無かった」又は「あの合意は無効であった」などと虚偽の性被害を訴える者が表れる危険性についても指摘がされています。例えば、不貞行為が配偶者に露見したために、強姦であったことを主張する等です。

この点については、現在の日本でも強姦罪で和姦が成立するとして無罪判決が出されている案件もあることからすれば(勿論、無罪判決が出された事件すべてが虚偽告訴ではありません)、やはり一定程度の考慮すべきリスクだと思われます。最終的に、無罪判決が出されるとしても、刑事裁判に当事者として関与させられること自体が多大な不利益であることは看過できない論点です。 

●(3)被害者へのセカンドレイプの危険

スウェーデンの新法については、裁判官は、明白な合意があるか否かの判断にあたっては、「必ずしも、アプリのイエスボタンを押すとか、口頭で正式に『はい』という必要は無く」「性行為の際の言葉や身ぶり、その他の行為によって合意の表現が成されたか否かに注視」すべきとされています。

この結果、アプリや口頭での正式な「YES」が無く、明白な合意があったか否かが争点となった場合には、セックスにいたる過程やセックスの最中に被疑者側からどのような行為や言動があり、その結果被害者側がどのような反応をしたか等、具体的な経緯、状況等が立証の対象になっていくものと思われます。そうなれば、捜査機関による取調べの過程や裁判手続において、被害者は生涯でもっとも屈辱的で一番忘れたいはずの事実について、詳らかに記憶を喚起することを余儀なくされます。

この点については、犯罪の成否だけにおいて、被害者保護を議論するのではなく、捜査の過程や裁判においても、性犯罪被害者の人権擁護と心のケアがより実現されていくことが望ましいと考えます。

●背景にあるのは、その国の宗教観や文化・民族性

この他にも、類型的に同意が推定される関係性(例えば婚姻・婚約・内縁関係等)以外での性交渉が減少して、それ以外の関係性でのセックスをする女性に対して否定的な傾向に価値観が変容するであったり、主張立証責任が実質的に転換されるのではないか等と指摘する方もいます(建前上はあくまで検察官が立証責任を負います)。

このような合意の無いセックスを違法とする立法をしている諸外国は、スウェーデン以外にもいくつかあります。これらの背景には、その国の宗教観や文化・民族性等があります。日本の文化・民族性等では、今回のスウェーデンの新法のような立法がなされるのはしばらく先の話だと思われます。

ですが、望まないセックスを強要されない権利は、万国共通で万人が有する権利だと考えられます。この権利の実現に向けた法制度について、どういった法制度が我が国に合っているのか等について、国民がそれぞれの立場から十分に議論することが大切だと思います。

(弁護士ドットコムニュース)

松木 俊明弁護士
刑事事件、企業法務、知的財産案件を中心に取り扱っている。弁護士業以外にも、ハーバード流交渉学の講師として大学での講義、企業研修講師を数多く担当している。最高裁判決事件(平成29年11月29日)を担当。
事務所URL:http://arcus-law.net/

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