3年前に女性に性的暴行をしたとして、神戸市の風俗店従業員の男性が9月中旬、強姦罪(=強制性交等罪)の疑いで兵庫県警に逮捕された。
報道によると、男性は2014年9月、神戸市内の集合住宅の駐輪場で、帰宅途中の20代女性に性的暴行をした。女性が被害届をして、遺留物などから男性が浮上した。だが、告訴がなかったため、兵庫県警は継続捜査をしていたという。
強姦罪は告訴が必要な親告罪だったが、今年7月の改正刑法の施行で、親告罪の規定が撤廃されて、施行前の事件にも適用されるようになった。県警は女性に意見を聞いたうえで逮捕に踏み切ったようだ。今後、過去の事件であっても、告訴なしに蒸し返されることが起きるのだろうか。奥村徹弁護士に聞いた。
●「3年前の事件」についても告訴なしで検挙されるようになったワケ
「今年7月に施行された改正法では、強姦罪(177条)の名称を『強制性交等罪』に改めました。
さらに、処罰対象を『性交・肛門性交・口腔性交』に拡大したうえ、法定刑を『5年以上の有期懲役』に引き上げました。ちなみに、これは施行日以降の行為にのみ適用されます。(改正法附則2条1項)
同時に、強姦罪・強制わいせつ罪等の性犯罪について、告訴がないと起訴されないとしていた規定(刑法180条・親告罪)が廃止されました。
すべての告訴権者の告訴取消(刑訴法237条2項)などで、"この法律の施行の際すでに法律上告訴がされることがなくなっているものを除き"、施行日以前の行為にもさかのぼって適用されることとされました(改正法附則2条2項)」
さがのぼって適用される理由はなんだろうか。
「性犯罪を非親告罪化する趣旨が、告訴するか否かの判断をしなければならない被害者の精神的負担を軽減する点にあることに照らしてみると、改正法施行前の行為についても、原則として非親告罪として取り扱うことが適切であるとされたものと説明されています。
そこで、今回のケースのように、3年前の強姦事件についても、告訴なしに検挙して起訴することが可能になりました。
ただ、この点については、憲法39条(遡及処罰の禁止)、憲法31条(適正手続)、刑法施行法4条(『刑法施行前旧刑法又ハ他ノ法律ノ規定ニ依リ告訴ヲ待テ論ス可キ罪ヲ犯シタル者ハ刑法ノ規定ニ依リ告訴ヲ要セサルモノト雖モ告訴アルニ非サレハ其罪ヲ論セス』)との関係が問題になると思います」
●「示談済みの事件が蒸し返される可能性は低い」
示談のあった事件も起訴される可能性があるのだろうか。
「改正法附則2条2項の"この法律の施行の際すでに法律上告訴がされることがなくなっているものを除き"という文言からは、改正法施行前の性犯罪について、示談により告訴されなかったり、示談により一部の告訴権者のみから告訴取消を得たりして不起訴になった場合についても、公訴時効までは法律上、訴追される可能性が出てきたことになります。
もっとも、それでは訴追を望まないという被害者の意向や法的安定性に欠けることから、検察庁には『本法施行後においても、引き続き、事件の処分に当たって被害者の意思を丁寧に確認するなど被害者の心情に適切に配慮する必要がある』という通達が出ています。
したがって、基本的には、示談済みの事件が蒸し返されることはないと思います。
また、この通達にしたがえば、今後、性犯罪について示談する場合も、被害者に説明と謝罪を尽くして、起訴を望まないという意向を明示してもらえば、起訴猶予になると思います」