ニュース番組でよく耳にする「器物損壊罪」。その言葉の響きと字面からは「何かモノを壊したのだろうな」というイメージが伝わってくる。しかし、モノを壊さなくても、この罪に問われるケースがあるのをご存じだろうか。
報道によると7月17日、鳥取県教委職員の男が、女性のリップクリームに自らの体液を塗ったとして、器物損壊の容疑で逮捕された。聞いただけで気分が悪くなるような容疑で、そんなことをされたリップクリームは二度と使う気が起きないという点に異論はない。しかし、それは一般的な言葉の「壊れた」が意味するところとは、ちょっと違うようにも思える。
今回の容疑が「器物損壊」とされたのはなぜなのだろうか。法律の「器物損壊」とは、どんな意味なのだろうか。尾崎博彦弁護士に聞いた。
●心理的な意味で使えなくするのも「損壊」にあたる
「損壊という言葉は通常、物理的に壊すことを意味します。しかし、刑法の器物損壊罪における『損壊』は、それに限定されず、『社会通念上、その物の効用を失わせる状態にすること』を意味すると考えられています。
注意すべきなのは、『効用を失わせる』というのが、必ずしも機能的な側面からだけではなく、心理的な面からでも肯定される場合があると言うことです」
――今回のリップクリームも『心理的に使えなくなった』ので、器物損壊だということ?
「そうです。そのようなリップクリームを再度使用することなど、心理的に許容できるはずもありません。つまり、報道されている行為は『リップクリームの効用を失わせた』ことになり、『器物損壊罪』に該当するのは当然だと考えられます」
――物理的に「壊していない」のに器物損壊となった事例は、他にどんなものがある?
「たとえば、明治時代の判例ですが、食器の『とっくり』に放尿した行為が器物損壊に当たるとされました。
また、木製の看板を取り外して、離れた場所に投げ捨てたという事例でも、(看板そのものは壊れていませんでしたが)器物損壊罪が成立しています」
「器物損壊」という言葉が持つ一般的なイメージとは違い、犯罪の対象となる行為はかなり幅が広いようだ。不用意なことで「犯罪」とならないよう、十分注意すべきだろう。