大阪府堺市で、自転車に乗っていた女性に幅寄せして衝突し、ケガをさせたとして、配送業の男性が殺人未遂の容疑で逮捕された。
報道によると、男性は12月14日、堺市の路上で自転車に乗っていた女性に「殺すぞ」などと怒鳴り、運転する車を衝突させて殺害しようとした疑いを持たれている。
事件の前に男性は女性と口論になり、その後、追跡していたとみられる。警察の取り調べに対して、男性は、女性に車を接触させたことは否認しているという。
一般に幅寄せや追跡行為は、「あおり運転」や「危険運転」として、道路交通法違反に問われることが多い。しかし今回、男性に適用されたのは、より重い刑法の殺人未遂罪だった。
なぜ「幅寄せ」が、殺人未遂罪にまで発展し得るのか。自動車という「凶器」を用いた威嚇や追跡行為がはらむ法的リスクについて、本間久雄弁護士に聞いた。
●「殺人未遂罪」容疑で逮捕、なぜ?
──今回の事件では、なぜ殺人未遂罪が適用されたと考えられるのでしょうか。
殺人罪について定めた刑法199条は、「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは5年以上の拘禁刑に処する」と規定しています。
「人を殺す」とは、故意に他人の生命を断つことを意味し、その手段や方法は問いません。通常は、刺殺や撲殺、絞殺といった有形的手段が想定されますが、他人に強度の精神的衝撃を与えて死亡させるなど、無形的な手段であっても殺人の実行行為に含まれ得ます。
捜査機関は、自動車で自転車を追いかけ、幅寄せをするという行為が、他人の生命を奪う危険性の高い行為であると判断して、殺人未遂罪での逮捕に踏み切ったものと考えられます。
●「人を殺しかねない行為」の分岐点
──「幅寄せ」や追跡行為は、どの段階で「人を殺しかねない行為」として評価が切り替わるのでしょうか。
刑法上、「人を殺しかねない行為」をおこなうことは、殺人罪の実行に着手したと評価されます。殺人罪における「実行の着手」とは、行為者が殺意をもって、他人の生命に対する現実的な危険性を有する行為を開始した時点を指します。
その行為が生命に対する現実的危険性を伴うかどうかは、行為時の具体的状況を踏まえて、個別に判断されることになります。
今回のケースでは、自動車の速度や大きさ(軽自動車か大型車両か)、追跡がおこなわれた時間帯、幅寄せがおこなわれた距離、実際に車両が接触したかどうかといった事情を総合的に考慮していくことになります。
その結果、幅寄せ行為が他人の生命に対する現実的危険性を有する行為だと評価されれば、殺人未遂罪が、そこまでの行為には至らないと判断されれば傷害罪が成立することになります。
●「殺人未遂罪」が認められた事例は?
──過去に、同じような行為で殺人未遂罪が認められた事例はありますか。
幅寄せ行為そのものについて、殺人未遂罪の適用を認めた裁判例は、現時点では見当たりません。
被告人の幅寄せ行為によって被害者が大けがを負ったという事案で、検察官が殺人未遂罪の適用を求めたものの、裁判所が被告人に殺人の故意はなかったとして、傷害罪の成立にとどめたケースはあります(神戸地裁判決平成15年2月20日)。
裁判所は、その理由について次のように述べています。
「幅寄せ行為は、例えば、鋭利な刃物で相手の身体の枢要部を突き刺したり、普通乗用車であえて轢過するような、その身体に致命傷となるような直接的な攻撃を加え、かつ、殺人行為としての類型性もある行為と異なり、自らの行為により相手を死に至らしめる可能性を認識するにはいくつかの段階があるといえるのであって、冷静に考えれば認識できることでも、高揚した気分の中では死の結果までは認識できないこともあり得る」
●「幅寄せ」に殺人罪が認められたケースも
──では、殺人罪に問われたケースはあるのでしょうか。
最近の裁判例では、被害者のオートバイに追い抜かれたことに立腹した加害者が、自動車でオートバイを執拗に追跡し、自車を衝突させて被害者を転倒させ、死亡させた事案があります(大阪地裁堺支部平成31年1月25日判決)。
裁判所は、次のように判断しました。
「被害車両は、自動二輪車の中では大型に分類されるとはいえ、運転者の体が車体に覆われておらず、バランスを失いやすい二輪車であるのに対し、被告人車両は、総重量が被害車両の約5倍ある普通乗用自動車である。
また、衝突時の被害車両は時速80キロメートルを超える高速度であった上、その時の現場の交通量は多かったことが認められる。
したがって、衝突時における被告人車両と被害車両の速度差が時速約11ないし14キロメートルであったことを考慮しても、本件のような状況で被告人車両が被害車両に衝突すれば、被害者が、被害車両もろとも転倒し、地面や支柱等に頭をぶつけたり、被告人車両や他の車両に轢過されたりするなどして、死亡する危険は高かったといえる。
そして、このことは、日常的に本件現場を通行し、衝突直前まで被害車両を見ていた被告人も十分認識していたと認められる。それにもかかわらず、被告人は、被害車両に衝突してもかまわないという気持ちで、あえて被告人車両を被害車両に衝突させたのであるから、そこには、その衝突により被害者が死んでもかまわないという気持ちが表れていると認められる」
そのうえで裁判所は殺人罪の成立を認め、被告人に懲役16年を言い渡しています。