複数の女児にわいせつな行為をしたとして、これまでに7回逮捕されていた無職の男性が、再び逮捕されました。
報道によると、この男性は2024年12月、名古屋市の集合住宅で、当時6歳の女児の体を触るなどしたうえ、その様子をスマホで撮影した疑いが持たれています。
別の女児への不同意性交致傷の疑いなどでも逮捕されており、すでに一部の事件で起訴され、名古屋地裁で裁判が始まっているとのことです。
今回で8回目の逮捕となるわけですが、SNS上では「なぜ野放しなの?」「何で2回目以降、野に放たれるの?」といった疑問や批判が相次いでいます。
● 「再逮捕」が意味するもの
ただし、この「8回目の逮捕」という表現は、多くの読者に誤解を与えがちです。
この場合の「逮捕」とは、「逮捕→裁判→釈放」というサイクルが8回繰り返されたことを意味しません。
注意すべきは、男性が「一部の事件で起訴され、すでに名古屋地裁で裁判が始まっている」ということです。
原則として、逮捕は1つの犯罪事実につき1回しかできません。
逮捕後、警察は48時間以内に検察官に送致し(刑事訴訟法203条)、検察官は24時間以内に勾留(身柄拘束を続ける手続き)を請求するか、釈放する必要があると定められています(同205条)。
したがって「8回目の逮捕」とは、8つの異なる犯罪事実について、順次逮捕が続いている可能性が高いことを意味します。
つまり、身柄が一度拘束が解かれ、再び逮捕されたのではなく、身柄拘束はずっと続いたまま再逮捕されている可能性が非常に高いのです。
ただし、何度目かの逮捕・勾留・起訴で一度裁判になり、その裁判が終わって身柄が解放された後、しばらく経ってから今回の逮捕・再逮捕となっている可能性はあります。
この場合でも、今回の8度目の再逮捕については、すでに起訴中の事件で身柄拘束が続く中での再逮捕である可能性が非常に高いです。
起訴中に再逮捕が繰り返されて身柄拘束が続くイメージ図
●裁判中の被告人でも「再逮捕」はありうる
今回の男性は、すでに名古屋地裁で裁判が始まっているため、法律上は「被告人」という立場です。
裁判中の被告人が勾留されている状態を「起訴後勾留」(刑事訴訟法60条)といいます。
たとえ起訴後勾留中であったとしても、捜査機関は別の犯罪事実(余罪)について捜査し、その容疑が固まれば、新たな逮捕状を取得して「再逮捕」することが可能です。
仮にすでに起訴されている犯罪事実Aで「保釈」(一時的な身柄解放)が認められても、他の犯罪事実Bで逮捕された場合には、結局身柄は解放されません(犯罪事実Bについては、まだB罪について起訴されていない段階では保釈を請求することもできません)。
このような重大事件や余罪が多数あるケースでは、そもそも保釈自体がほとんど認められないのが実情です。
●再逮捕=「野放し」ではない
刑事弁護の現場では、捜査機関が身柄解放をさせないために再逮捕を繰り返していると考えられるようなケースにたびたび出くわします。
「再逮捕を繰り返す」のは、身柄の解放を許したからではなく、むしろ逆に身柄拘束を継続するための措置であることが圧倒的に多いといえます。
つまり、「8回目の逮捕」とは、「逮捕されてはすぐに野放しになっている」という状況ではありません。
実際には、身柄はずっと拘束されたまま、次々と別の事件(余罪)での逮捕・勾留が繰り返されている可能性が極めて高いのです。
(弁護士ドットコムニュース編集部・弁護士/小倉匡洋)