東京都中央区のデパート「日本橋高島屋」で1040万円相当の純金製茶わんが盗まれた事件で、窃盗の疑いで逮捕された男性(32)から茶わんを買い取った業者が、事件当日の4月11日中に別の業者に転売していたと報じられている。
朝日新聞デジタル(4月17日)によると、男性は事件後に江東区の買い取り業者に茶わんを「約180万円」で売却。この業者は同日中にさらに台東区の古物買い取り店に「四百数十万円」で転売していたという。茶わんは台東区の古物店で見つかっていたようだ。
男性から買い取った業者としてはあっという間に「200万円以上」の転売益を得た形だが、盗まれた茶わんの取引はそもそも法的に有効なのだろうか。西口竜司弁護士に聞いた。
●盗品でも「売買契約自体は有効」
朝ドラがスタートして法律に関心を抱いている方も多いのかなと思っています。今回の事件は、法律の教科書に載ってもおかしくなさそうなケースですね。最近転売に関する様々な問題を見聞きしますが、ネットでの売買が増加している中、購入者側からしたら難しい問題も含まれています。
──茶わんを盗んだとされる男性からの買い取りはそもそも有効なのでしょうか。
普通の感覚からすれば、盗まれたものを売買するなんて無効だろうと思われるかもしれません。
しかし、民法では他人の物を売却する契約自体は有効であると考えられています。仮に契約時点でまだ手元に物がなかったとしても、勝手に売却した後、商品を入手すれば契約自体は果たせるからです。ただし、盗まれた物の場合、原則として所有権までは移転しません。
もっとも、民法192条には「即時取得」という規定があります。簡単に説明すると、売り主に物を処分する権限がなかったとしても、買い主がそのことを知らず、過失なく売り主を信じて取引した場合、買い主が物の所有権を取得するという制度です。
──今回のケースでは、業者側が「即時取得」することはあるのでしょうか。
今回の事件でいえば、盗品の茶わんを買った業者側に原則として所有権は移転しませんが、調査しても茶わんが盗品だと分からないなど業者側が無過失だったとすれば、即時取得により茶わんの所有権が移転することになります。
今回の事件では悩ましいですが、買い取りを専門とする業者であり、純金製の茶わんが早々流通するものではないことからすれば、ある程度の調査をすれば容易に盗品か否かは分かるのではないでしょうか。結局、業者側に所有権は移転しないように考えます。
仮に、店が即時取得した場合でも民法193条に特別の規定が用意されており、盗まれてから2年間の所有権は被害者に帰属するというものがあります。意外と知られていない規定ですが、いずれにせよ茶わんの所有権は被害者にあるということになりそうです。
──江東区の業者から台東区の業者への転売は有効なのでしょうか。
転売自体は先程も述べたように他人物売買として有効になります。業者に所有権があろうがなかろうがこの結論に変化はありません。
──買い取り業者が刑事責任に問われる可能性というのはあるのでしょうか。
刑法には、盗品だと分かっていながら購入したり、保管したりする場合、犯罪として処罰されます(盗品等関与罪、刑法256条)。被害者の追求権(取り戻すこと)を侵害することが理由です。
今回のケースでは購入時点で盗品であることが分かっていれば盗品有償譲受罪にあたります。また、買った後で盗品だと分かって保管した場合、盗品保管罪が成立することになります。
他方で、盗品だと分からなかった場合は犯罪が成立しません。今回の事件では捜査の行方を見守ることになりそうですね。いずれにしても盗品かどうかについては早めに共有できるシステムの構築は必要だと思います。