29歳の全国最年少市長がまさかの逮捕。こんな衝撃的なニュースが駆け巡った。岐阜県美濃加茂市の浄水プラントの導入をめぐり、愛知県警と岐阜県警の合同捜査本部は6月24日、市長の藤井浩人容疑者を受託収賄と事前収賄、あっせん利得処罰法違反の容疑で逮捕した。藤井市長は容疑を否認している。
報道によると、藤井市長は市議会議員だった2013年3月、経営コンサルタント会社の経営者=贈賄容疑などで逮捕=から、同市内の中学校に浄水プラントを設置したいとの依頼を受けて、市議会で提案した見返りに現金10万円を受け取った「受託収賄」の疑いを持たれている。
また、市長選への出馬の意思を固めた2013年4月、市長に就任したら有利な取り計らいをするように依頼され、現金20万円を受け取った「事前収賄」の疑いも持たれている。
今回、「受託収賄」や「事前収賄」「あっせん利得処罰法違反」と3つの逮捕容疑があるが、それぞれどんな違いがあるのだろうか。刑事事件にくわしい神尾尊礼弁護士に聞いた。
●「受託収賄」は市議として、「事前収賄」は市長候補として
神尾弁護士は、「受託収賄」と「事前収賄」の違いについて、次のように解説する。
「『受託収賄』とは、公務員が職務に関してやってほしいことを頼まれて(請託)、了解してわいろを受け取った場合に適用されます。7年以下の懲役が科されます。
一方、『事前収賄』とは、市長のように公務員になる予定の人が、当選前などに請託を受けて、わいろを受け取った場合に適用されます。こちらは5年以下の懲役が科されます。
今回の場合、市議の立場でわいろを受け取ったことが『受託収賄』、市長選挙の立候補予定者としてわいろを受け取ったことが『事前収賄』にあたります」
なるほど、収賄も立場やタイミングによって、さまざまな分類があるようだ。
「公務員が、何かを求められたわけではなく、単にわいろを受け取っただけの場合は『単純収賄』という罪にあたりますが、今回は、業者からの請託を受けていたという容疑で、『受託収賄』や『事前収賄』に該当します。
ちなみに、わいろを受け取った後に、不正行為を実行した場合、今度は『加重収賄』という犯罪になります。今回の事件も、途中で『加重収賄』の容疑に切り替わる可能性があります」
●「あっせん利得処罰法」は政治家の口利き行為を禁止
では、もう1つの逮捕容疑である「あっせん利得処罰法」とはどんな意味があるのだろうか。
「刑法で定められた『受託収賄』や『事前収賄』と異なり、特別法として2000年に制定されたものです。
国会議員や地方議員、自治体の首長などが、その影響力を行使して、公務員に職務行為をさせる「口利き」と引き換えに、利益を得ることを禁止しています。3年以下の懲役が科されます」
刑法における「収賄」が公務員全般を対象にしているのに対し、「あっせん利得処罰法」は主に政治家を対象としている点が異なっている。
今後、捜査が進んでいくのだろうが、現状では藤井市長が容疑を否認しているだけに、その動向が注目される。