韓国出身で人気のDJ SODAさんが8月14日、大阪で開催された音楽イベントでセクハラ被害にあったことを自身のX(旧ツイッター)アカウントで投稿し、波紋を呼んでいる。
投稿によると、音楽フェスティバル「MUSIC CIRCUS’23」の大阪公演で、「公演の最後の部分でいつものようにファンの方々に近づいた時、数人が突然私の胸を触ってくるというセクハラを受けました」という。
「あまりにも大きな衝撃を受けて未だに怖くて手が震えています」と心情も明かし、男性に触られただけでなく、胸を掴んだ女性もいたと訴えている。
DJ SODAさんは「私がどんな服を着いたとしても、私に対してのセクハラと性的暴行は正当化できない」(原文ママ)とも投稿。許されない行為には違いないが、具体的にはどんな犯罪になりうるのだろうか。わいせつ事件にくわしい奥村徹弁護士に聞いた。
●「胸に触れる行為は容認されていない」
——一方的に胸を触る行為はどのような法令違反に当たりますか。
胸部を触られた場合は、まず迷惑条例違反が検討されます。
大阪府内であれば、「人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、衣服等の上から、又は直接人の身体に触れる」行為(卑わいな行為、大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例6条2項1号)に該当します。法定刑は「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」です。
「人を著しく差恥させ、又は人に不安を覚えさせるような」とは、社会通念上、人に著しく性的恥じらいを感知させ、または不安を覚えさせるであろう程度のことをいいます。
「著しく」の程度は、具体的にどの程度と明示することは非常に困難ですが、社会通念上、容認し難い程度のものであれば足りるとされています。
原則として被行為者(被害者)が行為者(加害者)の言動を認識する必要はありますが、当該言動によって実際に性的恥じらいを感知し、または不安を覚えたか否かは問いませんこの点は、社会通念上「客観的に」判断されます。
病人や負傷者の救護など社会通念上妥当な行為と判断されるケースで、被行為者が著しく性的恥じらいを感知し、または不安を覚えたと主張したとしても、当該行為を処罰の対象から除外する必要があるからです。
——今回のケースについてはどうでしょうか。
芸能人が露出のある服装で登場したとしても、社会通念上、胸部・乳房を触る行為までは容認されていないでしょう。
●「不同意わいせつ罪にも当たり得る」
——条例違反以外についてはどうでしょうか。
次に、不同意わいせつ罪(刑法176条)を検討します。
現在判例上「わいせつ」の定義はなく、刑法176条にいうわいせつな行為に当たるか否かの判断について、最高裁判決では次のように説明されています。
「行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で、事案によっては、当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し、社会通念に照らし、その行為に性的な意味があるといえるか否かや、その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断せざるを得ないことになる」(最高裁平成29年11月29日判決)
また、上記最高裁判決後の裁判官の論稿では、次のように解説されています。
「胸と臀部は性を象徴する典型的な部位といえるから、被害者の胸や臀部を直接触ったり揉んだりする行為、あるいは行為者の胸や臀部を直接被害者に触らせる行為は、瞬間的な接触や狭い範囲の接触でなければ、性的性質が強く、行為そのものが持つ性的性質が明確で、直ちにわいせつな行為と評価できる場合に当たるのではないかと思われる」(薄井真由子「強制わいせつ罪における『性的意図』」~植村立郎「刑事事実認定重要判決50選上巻《第3版》」)
露出のある服装をした芸能人の胸を触る行為は、態様によっては、不同意わいせつ罪に該当することもありえます。
なお、刑法の「わいせつ行為」と迷惑防止条例の「卑わいな行為」とは、別の法形式(法律と条令)で別々の概念(わいせつと卑わい)として定義されています。法定刑の重さからは「わいせつ行為」の方が強度だという傾向はありますが、明確な境界線というのは存在しません。