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父から娘への性暴力「向こうが誘ってきた」悪びれない父親たちの言い分
共通するものとは(イラスト/弁護士ドットコム)

父から娘への性暴力「向こうが誘ってきた」悪びれない父親たちの言い分

ここ近年「監護者わいせつ罪」や「監護者性交等罪」という罪名をニュースで目にしたことはないだろうか。

2017年の刑法一部改正により新設され、親や養親などの監護者が、18歳未満の者に対して「監護者であることによる影響力」に乗じて、わいせつ行為や性交をした場合、これらの罪に問われるようになった。通常の強制性交等罪のように、暴行や脅迫などの行為がなくとも成立する。

多くの刑事裁判を傍聴するライターの高橋ユキ氏によれば、被告人となった父親たちの言動には、「ある共通点が見えたり、似た証言をすることがあった」という。それは一体、どんなものなのか。高橋氏の寄稿をお届けする。

●傍聴にも一苦労

「監護者わいせつ罪」や「監護者性交等罪」に問われた事件の傍聴は、なかなか骨が折れる。

逮捕されたり、または有罪判決を受けた“監護者”たちの実名は報じられない。被害者は監護者の子である場合があるため、被害者秘匿の観点からこうした対応がなされている。

裁判所でも同様だ。「監護者わいせつ罪」や「監護者性交等罪」で起訴された被告人については開廷表に被告人名は載らず、法廷でも、氏名や住所を名乗ることはない。被害者とされる者の氏名も伏せられる。傍聴取材をするには、裁判所に通い、開廷表から、同罪名の事件がないか確認するしかない。

こうして監護者性交等罪、監護者わいせつ罪の公判をいくつか傍聴してきた。そんな中で、目にした事件はまだ数少ないながらも、起訴された監護者たちの共通点も浮かび上がってきたのだ。

●被害にあった娘「幼い頃から暴力を受けていた」

当時高校2年生だった実の娘に性交したとして、その父親が「監護者性交等罪」に問われていた公判が2020年、東京地裁で開かれていた。すでに父親には懲役6年の判決が言い渡されている。

事件が起きたのは2017年8月。娘のAさんに対し、自宅で性交したという。だが検察側冒頭陳述では、父親による行為はその一度だけではないことが明かされる。

父親は「Aさんが小学校5年生の頃、妻が仕事で留守の時に被害者の寝室に入り陰部を触る、胸を揉むなどの行為をしていた」うえに「Aさんが高校生になると何度も性交するようになった」のだという。

Aさんは高校生になっても、父親からは逃れられない、家族が崩壊するなどの思いから周囲にこれを言えずにいた。

また父親は逮捕に至った犯行後も性交を続けていたが、被害者が自宅で硬直状態となり病院に赴いた際、主治医に相談して初めて発覚した。

父親は、性的行為だけでなく体罰や暴言も繰り返していた。娘のAさんは意見陳述の際にこう述べている。

「幼い頃から暴力を受けていた。お父さんは怒りっぽく、勉強ができないだけで問い詰める。小学校2年生の夏、塾の受講料が高いといい、自宅で勉強を教わることになりましたが地獄の日々でした。できないことがあれば頭を叩き『バカ』『アホ』と怒鳴るので何も頭に入って来ませんでした」

「(中略)高校2年生のころ、思った成績が取れなかったところ『お前はバカ』と言われた。バカだから勉強しないといけないと、3日寝ずに勉強したら入院した。父の影響は大きく、怒られることに敏感になっている」

「入院前も、いつものようにパンツをさわってきて『入れていい?』と言いながら膣内に指をいれてきて挿入された。赤ちゃんができるからやめてと言ったがやられてしまった。誰にも相談できなかった。家族がバラバラになるのが怖かった」

●「殴るか、しゃぶるか選べ」

体罰を加える被告人はこのAさんの父親だけではない。

千葉地裁(前田巌裁判長)で今年6月に懲役11年が言い渡された被告人は、義理の娘のBさんに対する監護者性交等や監護者わいせつ、児童ポルノ禁止法違反で起訴されていた。地裁判決言い渡し後、控訴している。

一審判決などによれば、養父はBさんに対し2017年8月27日の夜、自宅で性交や口腔性交のほか裸の姿を撮影。さらに2019年5月9日にも、関東近郊の駐車場においてBさんに対し性交したという。その翌日、Bさんは警察に相談した。

3月にはビデオリンク方式でBさんの証人尋問が行われ、小学校高学年の頃から、高校生の間まで、長期的に性的虐待が行われていたと証言した。最初に養父から性的虐待を受けたのは小学校5年生の頃だという。そのきっかけは“身体的暴力”か“性的暴力”の二択を迫られたことだったと語っている。

「『殴るか、しゃぶるか選べ』と言われ、最初はどちらか選ばずに拒否していたら、何度も殴られたので最終的にはしゃぶることを選びました」

それ以降、養父からはたびたび性行為を求められ、断れない日々を送っていた。膣内に射精されることすらあった。その理由も「拒絶すると、叩かれたりとか、暴力されたからです」と、身体的暴力が背景にあったと明かす。

“何もされない”という選択肢はなかった。

●性暴力の背景に身体的暴力、教育虐待

彼ら監護者が加えているのは一度だけの性暴力ではない。長きにわたる身体的暴力、また教育虐待も存在する場合がある。Aさんの実父のように、勉強を教えることに熱が入り暴言や暴力を振るう者はほかにもいた。

現在、千葉地裁で行われている公判では、監護者が義理の娘Cさんに対する監護者わいせつ罪や傷害の罪に問われている。

彼はCさんの胸を揉んだり陰部に指を入れたりしたというわいせつ行為は否認しているが、ゴールデンウィークの家族旅行をCさんがドタキャンしたことに端を発する傷害は認めている。またそれ以前から、Cさんへ暴力を振るっていたことを、被告人質問で自ら証言していた。

Cさんが勉強していない、成績が悪いと思った養父は当時「正座させて勉強を見るということはありました」という。

「夜12時近くまでやっていた記憶があります。暴力も……12時までの勉強の日は、中断することが多く、ゲンコツで叩きながら、泣きながらやらせていました。それ以前もゲンコツはしょっちゅうです」とつきっきりで監督し、時に叩くことがあったと認める。

認めている傷害罪についても、家族旅行を提案した養父に対し、部活を理由に欠席するとCさんが伝えたのがきっかけとなった。養父はCさんを怒鳴りつけた上、自室に逃げるCさんを追いかけ正座させたのち、頭髪をつかんで引き倒したという。

この養父はCさんだけでなく当時の妻に対しても、子どもの面前で首を締め上げるなどの激しい暴力を振るっていた。子どもを連れて実家に帰ろうとしていた妻の車の上に乗り、暴れたこともあった。自宅に警察が駆けつけたこともあり、事件前に児童相談所が介入している。

当の養父はCさんに対する傷害について、こう説明した。

「部活と宿題の予定を確認して大丈夫だと聞いていたので旅行を計画しましたが、前日に娘が『部活あるし宿題もしてない』と言い出して激昂しました。リビングで私に言い訳しはじめ、嘘をつく態度をとったので、大声で怒鳴りました。意に沿わないことがあれば当時から反抗的な態度をとり、睨んだり、黙ったり、あと嘘をつきます」

●子どもの素行が悪いと主張

普段からCさんに対して厳しくすることについては、養父なりの理由があったと述べた。

「小学校6年生の頃に男友達ができて、携帯の中身を確認すると、その彼と不適切なやりとり……それに激怒しました。その流れで、もう連絡を取らないとCは言っていたのに、その後も連絡取り合っていたので、携帯を目の前で折りました」

「通信教育の進行具合や宿題を確認していたところ、やっていなかった。通信教育……お金払っているのに無駄にしていることに腹が立ちました」

子どもに厳しくするのは、こどもの行動が目に余るからという主張である。それだけでなく、子どもの人間性についても否定的に語る。

「妻がやっていたように、周りの人間を味方につけるように、言いふらして『私は悪くない』ともっていくタイプなので、私の体罰……夜にベランダに出したり、正座させたり、ゲンコツしたりしていることを、男友達に相談してるんだろうと思いました」

子どもの成長に伴い、交友関係は広がっていくが、それを否定的に捉え、素行や性格を非難する発言が目立った。“嘘つき”だという主張を聞いたのもCさんの養父からだけではない。Bさんの養父も同じことを語った。

「娘は、まず嘘つき。自分のことが一番かわいい。手癖が悪く、その場限りの嘘をつく。もう一つ心配なのは性的なこと。人の何倍も興味持っていた。あ〜それと、嫁は内気だと娘のこと言ってたが、内気じゃない。男友達がいたり、隠れて友達と出かけたりもしてたし……」(Bさんの養父の証言)

福島地裁郡山支部で2019年3月、懲役6年の判決が言い渡されたのち、仙台高裁が審理を差し戻し、福島地裁で懲役6年の判決が言い渡された父親についても、こうした傾向がみてとれる。

父親である被告人は、娘のDさんと性交したとして監護者性交罪に問われていたが、父親は「Dは警察に意図的に虚偽の被害を述べた」と主張していた。

SNSの利用を父親に制限されていたにもかかわらず、こっそり再開させたDさんが、ふたたびスマホを取り上げられないよう嘘の証言をしたという言い分だった。

父親の言うことも聞かず、嘘もつく娘だったと父親は思っていたようだが、差し戻し後の判決では「それをもって被告人に性交等をされるという重大な事件を作出するほどまでに強い動機となるとは言い難い」と一蹴されている。

●刑務所でも「向こうが誘ってきた」

関東地方の刑務所に務めていたある出所者は、こう明かす。

「性犯罪で多かったのが自分の連れ子に対するものです。入ってきた人間の10人中10人が言うのは『昔は犯罪じゃなかった』。あと次に多いのが『向こうが誘ってきた』。普通に考えて、誘うわけないでしょう。でもほとんどのやつが言うってことは1割ぐらいそんなこともあるのかなと悩んじゃうぐらい全員が言うんです」

子どもの立場に立てば、家族だと思っていた親から性的暴力を受けることは耐え難い。だが当の監護者らは、自分が加害者であるという認識の薄いままに、子どもの非をあげつらうのだった。

【プロフィール】高橋ユキ(ライター):1974年生まれ。プログラマーを経て、ライターに。中でも裁判傍聴が専門。2005年から傍聴仲間と「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。主な著書に「木嶋佳苗 危険な愛の奥義」(徳間書店)「つけびの村 噂が5人を殺したのか?」(晶文社)など。好きな食べ物は氷。

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