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「絵なんてやめろ」 東京藝大の男子学生から受けた「壮絶デートDV」、女性画家が告白
画家の女性、Aさん(2023年1月、弁護士ドットコム撮影)

「絵なんてやめろ」 東京藝大の男子学生から受けた「壮絶デートDV」、女性画家が告白

若手画家の女性、Aさん(20代)は美術予備校から東京藝大に進学する中、交際していた学内の男性から、深刻なデートDVの被害を受けた。

身体的な暴力、性的な暴力、経済的な暴力、精神的な暴力。Aさんが受けた暴力は、政府や自治体が定義するデートDVのすべてに該当する。

しかし、交友関係も制限されて、誰にも相談できなかったことから、相手の「マインドコントロール」から抜け出せず、自分が被害に遭っていることに最初は気づけなかった。

男性と別れたあと、PTSDを発症したAさんが、大学のハラスメント防止委員会に相談したものの、「被害の証拠がない」として、調査もされなかったという。

一般的に、こうした加害行為は、第三者のいない場でおこなわれる。証拠が残りづらいうえ、Aさんは、男性と別れた直後、気持ち悪さからLINEの会話などを削除してしまっていたのだ。

誰にも助けを求められなかったAさんは、どのような被害に遭ったのか。また、同じような被害に遭わないためにはどうしたらよいのか。自らの言葉で語ってくれた。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

【この記事には女性に対する暴力が具体的に書かれています。お読みになる際には十分ご注意ください】

●暴力は「言葉」から始まった

「加害者は、仕事ができそうな喋り方をする人。いまでいえば、ひろゆきさんみたいな感じで、弁が立つタイプでした」

高校3年生の夏、東京藝大受験のために通っていた美術予備校で、Aさんは、加害者となる男性に出会った。女子校育ちで恋愛経験もなかったAさんは、年上で社交的な部分に惹かれ、交際を始めた。

男性は時々、「男は浮気してもいいが、女は許されない」「女は男を支える生き物」「理由があれば人を暴行していい」という「謎の理論」を語ることがあった。

Aさんは違和感を覚えつつも、まだ高校生だったこともあって、上手に反論できず、いつの間にか丸め込まれていた。

そのうち、言葉の暴力が始まった。呼び出しに応えられなければ、ひどく罵られた。翌年に控えた入試が近づくにつれ、長時間にわたって、罵倒されることが増えていった。

「俺は受験でストレスがたまっている。だから怒るのは仕方ない。お前がうまく俺のアンガーマネジメントをしろ」

言葉の暴力のたびに、男性はこう言っていたという。

●言葉の暴力から身体への暴力へ

そんな状況の中、受験の準備は思うように進まず、Aさんは東京藝大の一次試験に落ちてしまった。同時に東京藝大を受けていた男性は通過していた。男性の言葉の暴力に拍車がかかり、Aさんを貶める発言を繰り返した。

「お前が落ちるのは当たり前だ」

ショックを受けたAさんは、共通の友人に相談した。友人は、男性に対して、Aさんへの態度をあらためるように指摘してくれた。

男性は東京藝大の二次試験を終えると、Aさんに自分を労わるよう求め、大学まで迎えに来させた。Aさんは大学近くの公園に連れ込まれ、頬や頭を叩かれた。

理由は、友人に相談したためだった。「俺に恥をかかせた」「お前が相談したことは『全部嘘です』と訂正のLINEを送れ」とまくしたてた。本格的な身体への暴力が始まった。

男性が東京藝大に合格すると、一時的に暴力は落ち着いたように見えた。しかし、相談していた友人とLINEでつながっていることを知った男性は、無理やりAさんをLINEから退会させるなど、ハラスメントは続いていた。

●加害者をほめたたえる文章を書かされる

その後、男性は学内で別の女子学生と交際するようになった。しかし、Aさんとの交際も続け、Aさんは振り回された。

そのうち、男性が、交際相手の女子学生に対して暴行を加えていたことが発覚して、警察沙汰となった。Aさんはその最中も、男性を慰めるよう求められた。

「毎日のように、『加害者は何も悪くない。女子学生が悪い。加害者は才能があるし、作品は素晴らしい』という文章を書かされました。本心ではないので、すごくつらかったです」

断れば、バイト中であっても、深夜であっても呼び出され、怒鳴り散らされた。理不尽な要求は他にも続いた。Aさんが加害者のLINEに対して、3分以内に返信できないことがあった。すると、癇癪を起こした男性は自身の携帯を壊した。

呼び出しに応じなければ、加害者に何をされるかわからない。恐怖にかられたAさんが会いに行くと、「ブスのくせに俺に優しくもできないなんて」「絵を描くなんてやめろ」と責められ、顔を何回も叩かれた。

さらには、「お前のせいで携帯が壊れた」といって、Aさんに携帯の代金の半額にあたる5万円を払うよう命令してきた。

●先輩の言葉で被害に気づく

Aさんに対する身体的な暴力や性的な暴力はエスカレートしていった。

無理やり男性の実家に連れて行かれ、加害行為をされた。実家には、男性の母親がいたが、助けを求めても「いまは(男性の)ストレスがたまっているので、我慢してくれ」と言われた。

Aさんの家族が心配して、男性の母親に電話したときは、「大丈夫ですから」と言って、止めることはなかったという。

暴力と拘束は、Aさんの大学受験中も、Aさんが東京藝大に合格したあとも続いた。実家に泊まることを強制され、無気力になったAさんが何も話さなくなると、男性はまた殴り続けた。勝手にAさんのSNSアカウントを操作して、Aさんの学内の友人をブロックすることもあった。

Aさんが大学1年の5月、男性が入院し、物理的な距離がとれたことをきっかけに、関係を断ち切ることができた。それまで、男性の言うことを聞かなければならないと思わされていたAさんだったが、相談した学内の先輩の言葉が背中を押してくれた。

「先輩は『あなたの本業は学業でしょう。(加害者のせいで)学業がままならないというのはおかしい』と言ってくれました。当時、授業を休んでまで加害者に対応していました。

絵も描けなかったし、勉強もできなかった。バイトで得たお金は加害者のために使わなければならない。家族にも心配をかけて、自分は何のために生きているのかと思いました。先輩の言葉を聞いて、絵を描くためじゃないのかと気づいたんです」

服の趣味すら男性に合わせていたAさんは、先輩の言葉がきっかけで、自分がマインドコントロールされて、DVを受けていたことに気づけたという。

●物的証拠がなく、ハラスメントの調査されず

別の女子学生への暴力で、男性は刑事告訴された。示談が成立して、告訴は取り下げられたものの、女子学生が卒業するまで停学処分とされた。大学の窓口に相談していたAさんは、大学側から「Aさんが卒業するまでは大学に通わせない」という説明を受けていた。

AさんはPTSDを発症していた。しかし、女子学生の卒業と同時に、男性の停学が終わることを知らされたという。

いつキャンパスで遭遇するかわからない恐怖の中、Aさんはあらためて大学のハラスメント防止委員会に申し立て、Aさんの在学中は男性がオンラインで講義を受ける措置がとられた。

「でも、物的な証拠が残っていないということで、ハラスメントの調査委員会は開いてもらえませんでした。卒業制作がある中、手続きも本当に大変でしたし、学内で何度も被害を話さなければならないのがつらかったです」

そうした中で、助けになってくれたのが、学外の友人だった。被害をまとめた文書づくりをサポートしてくれたという。

美術は、予備校時代からの人間関係がそのまま美術・芸術系大学でも継続し、卒業後の作家としてのキャリアにも影響する特殊な業界だ。Aさんは予備校時代から東京藝大という狭い人間関係の中、被害に遭ったが、周囲になかなか話すことができなかった。

被害者にとって何が必要なのだろうか。Aさんはこう語った。

「私は被害をなかなか相談できませんでしたが、いま後輩に同じような被害の相談を受けたりしています。被害者が少しでも違和感を覚えたら、そういうふうに先輩や教員に相談できて、すぐに大学側にも共有できる環境になってほしいです」

【女性に対する暴力の窓口はこちら】
https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/vaw/consult.html

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