裁判を傍聴していると「被告人が二度と同じ過ちを犯さず、そして新たな被害者が生まれないように」と強く願うことは多い。しかし残念ながら、再犯率は決して低くはないのが実情だ。
法務省が発表した『令和4年版 犯罪白書』によると、令和3年に検挙された刑法犯17万5041人の内、初犯者は9万9人、再犯者は8万5032人で、再犯者率は48.6%となっている。再犯の要因は簡単に語ることもできないが、生活環境の立て直し、矯正教育に課題があることは傍聴を通しても感じられることだ。
2023年1月、大阪地裁で行われた道路交通法違反に問われた裁判で、被告人の前科はなんと21犯(交通前科1犯、その他20犯)もあった。なぜ、被告人は犯罪行為を繰り返してしまうのか、この裁判で何を語ったのかお伝えする。(裁判ライター:普通)
●免許停止の基準をはるかに超えるアルコール量
被告人は60代後半の古紙回収業の男性。坊主頭で大柄な体つきだけ見るとやや威圧感を感じるが、表情はいたって柔らかく年齢相応に見える。ただ、緊張してソワソワしたり、むしろ悪びれる態度を取ることが多い被告人席で、いたって落ち着いてリラックスしているように見えたのは、前科の情報による主観であろうか。
今回、問われているのは道路交通法違反の2件。居酒屋で飲酒した帰りに運転を行った酒気帯び運転と、その運転時にマンションの外壁に車を衝突させたにもかかわらず警察への通報を行わなかったという疑いがかけられている。
この事件内容だけでも、充分悪質なのだが、実情はさらに悪い。
まず飲酒したアルコールの量がハイボール15杯、焼酎15杯と多量で、検出されたアルコール濃度は推定で呼気1リットル中0.6ミリグラムであった。この数値は、0.15ミリグラム以上0.25ミリグラム未満で免許停止、0.25ミリグラム以上で免許取消になることからも、その多量さが伝わるだろう。
事故後には、警察に通報せず、知人にレッカー移動の依頼をして隠ぺいを図っていた。逮捕のきっかけは、その様子をパトロール中の警官に見つかったからだった。
●ヤマダは存在するのか
裁判での証言によると、事件当時、被告人は居酒屋で一人で飲酒していた。そんな中、ヤマダなる人物から「相談に乗って欲しい」と連絡が来たので、家まで送らせるつもりでヤマダを居酒屋に呼んだという。
弁護人「ヤマダさんってのはどんな方なんですか?」 被告人「どんな方って言っても、3~4日前に『働かせてくれ』って言ってきたくらいで、よく知らんのですよ」 弁護人「ヤマダさんは車を持っていたんですか?」 被告人「金を持ってないって言うから、俺の家に居候させて、そのときに家のカギと車のカギをセットにして渡しておいたんで」 弁護人「それでヤマダさんの相談とはなんだったんですか?」 被告人「なんやよくわからんけど『仕事を辞めたい』って」 弁護人「それで、ヤマダさんはどうしたんですか?」 被告人「車とカギを置いて、どっか行ってしまって、それっきりですわ」
これによって、被告人は飲酒運転によって帰らざるを得なくなってしまったと証言する。ヤマダの存在自体、かなり怪しいものであるように感じたが、本当に存在していたのかなど、裁判でこれ以上語られることはなかった。
なお、運転以外の選択肢はなかったのかと問われると、「最近、駐禁を切られたばかりだった」、「家が近かった」などと証言した。
●フロントガラスはクモの巣状に割れていた
冒頭で前科21犯と紹介したが、ここ10年は勾留された経験はあるものの、有罪判決などは受けていないという。弁護人はそうした犯罪傾向が薄れつつある現状と、飲酒運転前提で飲みに出かけた訳ではないと弁護を展開していた。
発覚当初は容疑を否認していた被告人だったが、後に事実を認めたという。被告人質問ではしっかりと答えていったが、聞けば聞くほど人との接触などの事故が起きなくてよかったと思う内容だった。
弁護士「当日、お店を3軒はしごしていたのですか?」 被告人「そうだけど、最後の店は全然覚えてない」 弁護士「そんな状態で正常な運転ができると思ったんですか?」 被告人「家も近いんで大丈夫かなと思ったんやけど、急にわけわかんなくなっちゃって」 弁護士「眠っちゃったんですか?」 被告人「そうなんだと思います」 弁護士「フロントガラスはクモの巣状に割れていたようですけど」 被告人「多分、頭から突っ込んだんだと思います。血も出てたんで」
今後、免許を返納して、運転しないことを誓った。
裁判官からの質問でも、改めて今後犯罪行為に手を染めないと証言した被告人。その理由として、「もう最後にせんと、自分の人生これで終わりたくないですし」と語ったが裁判官にはどのように映ったのだろうか。
検察官からの求刑は懲役6ヶ月であった。
【修正】事実関係に誤りがあったため、記事を修正しました。(2月25日12:10)
【ライタープロフィール】 普通(ふつう):裁判ライターとして毎月約100件の裁判を傍聴。ニュースで報じられない事件を中心にTwitter、YouTube、noteなどで発信。趣味の国内旅行には必ず、その地での裁判傍聴を組み合わせるなど裁判中心の生活を送っている。