「あなたにピッタリの保険プランがあります」「投資用のマンションを購入しませんか」――勤務先にしつこくかかってくる営業電話に悩まされた経験はないだろうか。ネットの相談サイトには、仕事中の営業電話に対するさまざまな苦情が投稿されている。
「『今忙しい』と断った後も何度もかかってきた」「一日に何回も営業電話に応対しなければならない」と、うんざりした様子が伝わってくる。実際に仕事に支障が出たという投稿もある。
あるブログの筆者は「しつこい電話営業は害悪であり営業妨害だ」と言い切る。あまりにもしつこい営業電話は、単なる迷惑行為を超えて、犯罪にならないのだろうか? 好川久治弁護士に聞いた。
●犯罪とされるケースは「極めてまれ」
「一般にみられる勧誘セールス電話のレベルでは、刑法上の『業務妨害罪』が成立することは、極めてまれといえるでしょう」
好川弁護士はこのように話す。なぜ「極めてまれ」なのか。
「『業務妨害罪』にあたるには、業務を妨害する手段として、『偽計』(同法233条)あるいは『威力』(同法234条)を用いることが必要になります。
『偽計』とは、勘違いや不知を利用して、相手をあざむく、はかりごとです。たとえば、お店に何度も無言電話をかけて、業務を中断・停滞させるとか、頼んでもいない出前を注文するなどの行為が典型です。
また、『威力』とは、人の意思を制圧するような勢力を示すことで、電車の座席に画びょうをまくとか、お店の中で大声で怒鳴り散らして業務を停滞させる行為などが、これにあたります」
しつこい営業電話は「偽計」や「威力」にあてはまらない、ということか?
「相手の勘違いを誘ったり、相手を困惑させるような勢いを示したりというケースもあるかもしれません。断っても再びかけてきて、長時間にわたり電話を切らせないという場合もあるでしょう。そのような行為があまりにもひどい場合だと、『業務妨害罪』にあたるかもしれませんね」
●キッパリと断ることが何よりの最善策
つまり、例外的な場合をのぞいては、刑法上の罪にはならないということだ。だが、そうは言っても、実際にしつこくかかってくる営業電話のせいで、業務に支障をきたすこともあると思うが・・・。
「セールスの勧誘電話に対しては、『今は時間がない』とか『忙しい』といった、あいまいな返答をせず、相手に業者名と用件をたずねて、キッパリ、『その件は必要ないのでお断りします』とこたえるべきでしょう」
好川弁護士はこのように現実的な対策をすすめる。そのうえで、法的な観点から次のようなアドバイスを送っていた。
「消費者が希望しない勧誘や、いったん断ったあとの再勧誘、しつような勧誘などは、各種法令で規制されています。たとえば、『特定商取引法』や『金融商品取引法』、『商品先物取引法』などです。あまりにもひどい場合は、各法令にもとづく苦情の申立てや行政処分を求めることを考えてもよいかもしれません」