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電車で「足広げるな」 女子高生の膝を押した疑いの男性…逮捕までする必要はなかった?
画像はイメージです(amadank / PIXTA)

電車で「足広げるな」 女子高生の膝を押した疑いの男性…逮捕までする必要はなかった?

電車に座っていた女子高生に「足を広げるな」「閉じろ」と注意して、膝を押して、足を閉じさせたとして、神戸市在住の60代男性が8月26日、暴行の疑いで兵庫県警に逮捕された。

県警によると、男性は8月26日午後4時12分から17分かけて、岡山県内を走行中のJR山陽本線の普通列車内で、女子高生の膝を両手で押すなどの暴行を加えた疑いが持たれている。

神戸新聞によると、男性は、警察の取り調べに容疑を否認している。また、女子生徒は上郡駅で下車後、駅員に通報。男性は終点の相生駅で取り押さえられたという。

●逮捕の必要性に疑問も

刑事事件にくわしい鐘ケ江啓司弁護士が解説する。

「あくまで否認事件ということを念頭に置いたうえでの話になりますが、女子高生の言い分が正しいとすれば、たしかに違法な有形力の行使として、暴行罪が成立すると思われます。ただし、神戸新聞からは、私人による現行犯逮捕のように読めますが、女子高生が現場にいるわけではないですよね。降りた駅も違うので、現行犯逮捕はできないはずです。そのため、"取り押さえた"という話がおかしいように思います。もし私人逮捕されているなら違法な身体拘束となるのではないでしょうか」

この点について、兵庫県警に確認すると、相生警察署での「通常逮捕」だったという。またJR西日本によると、相生駅の係員5名くらいで、男性に声をかけて、駅の事務室まで連れて行き、そのあと相生警察署に引き継いだという。

「実質的には(駅員による私人)逮捕のような気もしますが、任意同行という扱いになっているのでしょう。しかし、男性が任意同行に応じているのであれば、『通常逮捕』するのもおかしいということになります。

というのも、逮捕するためには、被疑者が罪を犯したと疑うに足りる相当な理由だけでなく、逮捕の必要性、すなわち『逃亡のおそれ』や『罪証隠滅のおそれ』が必要です。罪を犯したと疑うに足りる相当な理由は勾留や緊急逮捕の場合と比べて低い嫌疑で良いとされていますので、女子高生の供述だけでも足りると思いますが、逮捕の必要性は疑問があります。男性は任意同行に応じているわけですし、男性が通報した女子高生を突き止めて証言を変えさせるといったことも現実的な話ではないですよね。これらのおそれがあるのか疑問です。

逮捕状請求を受けた裁判官は明らかに逮捕の必要性がない場合は逮捕状請求を却下するように『刑事訴訟規則143条の3』で定められていますが、裁判官による審査は警察からの一方的な資料だけで判断されますし、捜査機関の判断を尊重するものと解釈されているので、却下は極めて稀です。そのため、警察においては逮捕の必要性を的確に判断した上で逮捕状を請求することが望まれます。

裁判官の論考でも『裁判官は捜査機関の必要性判断を尊重すべきとの解釈は、捜査機関による必要性判断が適切に行われることが前提とされねばならないことに留意すべきである』と指摘されているところです<元東京地方裁判所判事補小松京子「逮捕の必要性」高麗邦彦・芦澤政治編『令状に関する理論と実務Ⅰ(別冊判例タイムズ34号)』(判例タイムズ社・2012年8月)94頁>。あくまで報道だけでの判断ですが、逮捕状請求をすべき案件だったのか疑問があります。

なお、この事件に対するインターネットの反応を見ると、『痴漢ではないか』という声もあります。ですが、迷惑行為防止条例違反でなく、暴行罪で令状が発布されているということは、女子高生の言い分を前提としても『卑わいな行為』と認められるような行動ではなかったのだと考えられます」

●関連する法律

刑法(暴行) 208条:暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料に処する。

刑事訴訟規則(明らかに逮捕の必要がない場合) 143条の3:逮捕状の請求を受けた裁判官は、逮捕の理由があると認める場合においても、被疑者の年齢および境遇ならびに犯罪の軽重および態様その他諸般の事情に照らし、被疑者が逃亡する虞がなく、かつ、罪証を隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、逮捕状の請求を却下しなければならない。

岡山県迷惑行為防止条例(卑わいな行為の禁止) 3条:何人も、公共の場所または公共の乗物において、正当な理由がないのに、人を著しく羞恥させ、または人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。 (1)衣服その他の身に着ける物(次号及び次項において「衣服等」という。)の上からまたは直接人の身体に触れること。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

鐘ケ江 啓司
鐘ケ江 啓司(かねがえ けいじ)弁護士 薬院法律事務所
刑事弁護、中小企業法務(労働問題、知的財産権問題、契約トラブル等)、交通事故、借地借家、相続・遺言、後見、離婚、犯罪被害者支援、等々幅広い事件を取り扱っている。執務のかたわら、条例による盗撮規制の研究をしており、全国47都道府県の警察本部が作成した迷惑行為防止条例の逐条解説、改正経緯の資料等を収集している。

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