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ダイヤモンド・オンライン連載企画/スマホの普及で盗撮冤罪のリスクが急上昇!?
ダイヤモンド・オンライン連載企画

ダイヤモンド・オンライン連載企画/スマホの普及で盗撮冤罪のリスクが急上昇!?

犯罪には「シーズン」がある。年末から年始にかけて増えるのは自動車事故、そして春先から秋口、女性が薄着になるにつれて目に見えて増加するのが盗撮事件だ。刑事事件のみを取り扱う弊所(アトム法律事務所・東京都千代田区)に寄せられる相談でも、4月以降、盗撮の相談件数が増加していることを実感している。相談の大半は実際に盗撮をした方からのものであるが、なかには、本当は盗撮をしていないのに盗撮を疑われて警察に突き出されたり、逮捕されてしまった方も少なくない。誰もが「明日は我が身」となり得る「盗撮の冤罪トラブル」における対処法を、刑事弁護士の立場から解説したい。

●靴ひもを結んだら盗撮犯にされた20 代会社員

 先日、都内の企業に勤める20代の男性が相談にみえた。

 飲み会の帰り、帰宅するために乗った電車の車内で、靴ひもを結ぼうとして携帯を床に置いたところ、盗撮を疑われ、近くにいた乗客男性に取り押さえられて、最寄りの警察に連れて行かれたというものだ。

 男性は、連行された警察署で、警察官から責められたり怒られるなどし、怖くなって、つい「すみません」と謝ってしまった。しかし、この「つい」出た一言で、捜査機関は男性を「盗撮犯人」と断定してしまう。

 今回の事件では、男性が早急に法律相談にみえたため、事態が悪化する前に弁護士が検察官と交渉するなどの弁護活動を行い、結果として不起訴処分を獲得し、男性が長期間留置場に勾留されたり、前科がつくという事態は避けられた。

 しかし、本件のように、ちょっとした行為が盗撮行為に間違われて逮捕され、長期間の休業を余儀なくされるなど、社会生活に支障をきたすケースは少なくない。

●スマホ普及で"市場"は拡大 都内の検挙数は前年比24 %増

 盗撮事件の性質は、近年大きく変化している。従来、盗撮は、「超小型カメラ」「ペン型カメラ」などの特殊なツールを使いこなせる、いわば「玄人」による事件が大半であった。

 しかし、昨今、盗撮ツールは携帯カメラやスマホなどの身近な機器へと移行し、盗撮された画像が出回る"市場"も拡大したと言っていい。警視庁によれば、昨年1年間に都内で、盗撮で検挙された件数は615件(前年比24%増)と、5年前の1.6倍に増加した。

 この背景には、スマホの普及や撮影音を消すアプリの流通などがあり、実際に上記半数がスマホによる盗撮である。しかし、盗撮の被害者が増えた半面、スマホを操作しているだけで盗撮犯に間違えられるなどのリスクも拡大している。

 「そもそも乗客に取り押さえられそうになった時点で潔白を主張すべきだ」

 「やっていないなら、謝らなければいいじゃないか」

 読者の方のなかには、そう思う方も多いかもしれない。しかし、考えてみてほしい。電車で「盗撮犯人」と指差された時点で、周りの乗客から一斉に厳しい視線を注がれる。警察署では、取り調べの手練れの警察官に囲まれ、責められる。そのような状況でただ一人、潔白を主張するのは大変難しいのが実情である。

 では、盗撮を疑われた場合、どのように対応したらよいのだろうか。100%刑事事件のみを扱う法律事務所の代表弁護士として刑事事件に取り組んできた経験から、実践的な対応法を解説したい。

●場所によって違う罪の内容 常習性がある場合は重い

 そもそも、「盗撮」をしたらどういう罪に問われるかご存じだろうか。

 盗撮事件を起こした場合、行為の態様、具体的には盗撮を行った場所によって処罰される罪の内容が変わってくる。

 まず、不特定多数の人が、自由に出入りする場所である、デパート、駅などの建物や、電車、バスなどの公共の乗物で盗撮を行えば、一般的に「卑わいな言動」として、各都道府県が定める迷惑行為防止条例違反により処罰される。

 この場合、条例によって異なるが、一般的には6ヵ月~1年以下の懲役、数十万円以下の罰金といった定めを置いているところが多い。ただし、頻繁に盗撮を行っているなどの「常習性」が認められる場合には、さらに重い罰則が科せられる。

 これに対し、女子更衣室など、誰もが自由に出入りできるとは言えない場所で盗撮を行う場合は、これらの場所の管理者の意思に反して女子更衣室等に侵入したとして、建造物侵入罪と共に、ひそかにのぞき見したとして軽犯罪法により処罰される可能性がある。

 軽犯罪法の刑罰は、拘留又は科料であるが、建造物侵入の容疑が加わると、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金(刑法130条)が科せられる可能性がある。

●潔白を主張し、穏やかに且つ堂々と立ち去るべし!

 「盗撮犯!」

 もしあなたが外出先で、女性からこう指差された場合、あなたはどうすればよいのだろうか。まずは現場でとるべき行動を指南しよう。

 盗撮事件の場合、実際に盗撮を行ったのであれば、「盗撮画像」という証拠が手元に残る。逆に、盗撮画像が手元にないということは身の潔白を証明する事実となるため、その場で現行犯逮捕されるということは考えにくい。

 そこで、盗撮を疑われた場合は、手持ちのスマホなどを被害者と称する女性に実際に見せて盗撮をしていない旨を伝え、その場で疑いを晴らすことが重要である。

 しかし、それでもなお、盗撮を疑われた場合は、名刺を渡すなどして身分を明らかにした上で、穏やかに且つ堂々とその場を立ち去ることが大切だ。

 万が一、事後に警察が来たとしても、その際は逮捕状が必要となるので、逮捕される危険は格段に減少すると言っていいだろう。

 なお、ネット上からダウンロードした盗撮画像をスマホなどに保存している場合、焦ってその場で消去等しようとすると、逆に疑いを深めることになるので注意が必要である。その場では、盗撮の疑いを晴らすことは難しいかもしれないが、現に撮影した画像かどうかは調べればわかるので、駅などで大騒ぎになるよりは、一旦警察に向かうなどして、画像を調べてもらう方がベターだろう。

 なお、その際、弁護士から警察対応のアドバイスが得られるかどうかで、今後の状況に大きな差がでる。自ら、あるいは家族や友人経由で弁護士に連絡をとり、対応できる準備を整えておくことをお勧めする。

●意に反して巻き込まれとき対処すべき2 つのポイント

 では、前述した現場でとるべき行動ができず、意に反して盗撮犯として事件に巻き込まれてしまった場合はどう対処すべきか。私が考えるポイントは、次の2点である。

(1)無罪を裏付ける証拠を見つける。

 盗撮犯人に間違えられた場合には、無実を裏付ける証拠をどれだけ集められるかが重要になる。実際に盗撮画像を保有していないことに加え、事件現場とされる時点の防犯カメラ画像など、盗撮をしていないことを合理的に説明しうる証拠が重要になる。

(2)被害者や目撃者など関係者の証言を弾劾する。

 被害者等の勘違いや思い込みによる間違った供述で、盗撮の容疑をかけられる場合がある。この場合は、被害者等がサインした供述調書を刑事裁判の証拠として使うことに「不同意」の意見を述べ、被害者等の証人尋問を行い、その証言を弾劾していくことになる。

 特に捜査の初期段階では、警察側が盗撮の被害者と称する人などの言い分を鵜呑みにして捜査を開始し、無関係の人が巻き込まれることがある。そのような場合でも諦めず、弁護士を通じて無実を裏付ける証拠を提出するなどの弁護活動を行うことが大切だ。

 逮捕された場合に備えて家族や友人に電話を入れ、万が一の場合は家族らが弁護士を選任するなど、誤認逮捕に早急に対応できるようにしておくことも有効である。

●もし盗撮してしまったら……反省と賠償を尽くすこと

 最後に、もし、つい出来心で盗撮行為をしてしまった場合についても、とるべき行動と心構えをお伝えしよう。

 まず、何よりも大切なのは、事件を反省し、被害者の方に謝罪と賠償を尽くすことである。但し、盗撮をした本人が被害者に直接連絡をすると、かえって被害者感情を逆なでしたり、脅迫と受け取られかねないので注意が必要だ。

 条例違反の盗撮事件の場合は、容疑を素直に認め、身元が安定していれば、本件が執行猶予中の犯行であるなどの特別の事情がない限り、比較的容易に釈放が認められる傾向にある。

 もっとも、他人の住居やその敷地内に侵入して覗き見を行った場合などは、関係当局から「犯行態様が悪質である」と判断され、勾留が決定されるケースが多い。このようなケースでは、「身元が安定していること」「証拠隠滅や逃亡のおそれがないこと」などの有利な事情を関係当局に十分に訴えていく必要がある。

 なお、盗撮で逮捕された方の中には、余罪があったり、常習性が認められる方が多いのが実情である。そういう方は、撮影した盗撮画像をPCなどに保存しているケースが多い。盗撮の容疑をかけられた場合に、自分で撮りためた盗撮画像を自分で消去することは、証拠隠滅罪(刑法104条)にはあたらない。同条は「他人の刑事事件に関する証拠を隠滅」すること等を禁じているからである。

 しかし、もし家宅捜索に入られ、データを復元されるなどした場合は、余罪の追及に加え、関係当局の心証を著しく損ねることになる点に留意されたい。

 いかがだろうか? 盗撮の冤罪は、誰もが巻き込まれる可能性がある。もし盗撮トラブルに巻き込まれたら、第一に、現場で冷静な対応をとり身の潔白を晴らすよう努力すること、第二に弁護士に連絡をすることが大切だ。

 弁護士事務所は敷居が高いと思う方もいるかもしれないが、最初の対応が今後の人生に大きく影響する。盗撮トラブルだけでなく、冤罪を晴らすために当局と闘う場合、弁護士は力強い味方となる。盗撮を疑われないよう気を付けることも大切だが、万が一に備えて弁護士の連絡先をメモしておいたり、それを家族と共有しておいたりすることも、有効な対策となるだろう。

プロフィール

岡野 武志
岡野 武志(おかの たけし)弁護士 アトム法律事務所
アトム法律事務所弁護士法人代表。弁護士登録の翌日、単身で事務所を設立し、5年で全国6所の事務所に成長させる。刑事事件専門の法律事務所の先駆けとして、悩みを抱えた方がアクセスしやすい弁護士・法律事務所を目指し、日々研鑽を積んでいる。

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