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「美濃加茂市長VS検察」名古屋高裁で「二審」がスタート――ふたたび全面対決
名古屋高裁での公判後に記者会見する藤井浩人・美濃加茂市長(中)

「美濃加茂市長VS検察」名古屋高裁で「二審」がスタート――ふたたび全面対決

学校プールへの浄水設備導入をめぐり、業者から現金30万円を受け取ったとして事前収賄などの罪に問われたが、一審で「無罪判決」を受けた岐阜県美濃加茂市の藤井浩人市長に対する控訴審の初公判が8月25日、名古屋高裁で開かれた。全国的な注目を集める裁判の第2ラウンドが始まった。

検察側は、一審で贈賄側の業者の供述が信用性がないとして退けられたことを受け、新たに捜査メモなどの証拠採用と、取調官2人の証人尋問を求めた。これに対して、木口信之裁判長はメモなどの証拠採用を留保、証人尋問は「必要性がある」として認めた。一方、藤井市長の弁護側は「苦し紛れの証拠だ。証人も検察側の身内であり、いくらでも都合のいい証言ができる」と指摘。現金授受をあらためて否定し、再び全面的に争う姿勢を示した。(ジャーナリスト/関口威人)

●出鼻くじかれた検察側

藤井市長は公務の合間をぬって出廷。一審と変わらぬ薄緑色のネクタイとスーツ姿で被告人席に立ち、3月の無罪判決以来、5カ月半ぶりの公判に臨んだ。

市長は市議時代の2013年、名古屋市の浄水設備業者だった中林正善受刑者=贈賄罪などで懲役4年が確定=から設備を売り込まれ、市に導入を働きかける見返りに、美濃加茂市内の飲食店で10万円、名古屋市内の居酒屋で20万円を受け取ったとして、起訴された。

検察側は「同席者が席を外したすきに封筒に入れた現金を手渡した」などとする中林受刑者の供述や、藤井市長の銀行口座の出入金記録などをもとに、現金授受は間違いないとして懲役1年6カ月、追徴金30万円を求刑した。

しかし、市長は初公判から一貫して無罪を主張。中林受刑者が検察側と取引して、総額4億円近くに上る融資詐欺事件の立件を一部にとどめてもらう代わりに、贈賄事件をでっち上げたとした。一審ではこうした弁護側の主張がほぼ認められ、藤井市長は無罪判決を勝ち取った。

控訴審で検察側は、中林受刑者の供述が一貫しており、不自然な点はないとあらためて主張。藤井市長と中林受刑者との密接な関係を強調し、現金授受の事実を補強する戦略を控訴趣意書などで示している。しかし、この日の初公判では、捜査段階の事実調べに関するメモなど十数点の証拠採用を裁判長に「留保」され、出鼻をくじかれた格好となった。

また、中林受刑者の取り調べを担当した警察官と検察官の証人尋問は認められたが、市長側弁護団の郷原信郎弁護士に「立証との関連性が分からない。具体的な証言内容が分からなければ、弁護側の反対尋問もしようがない」と突っ込まれ、検察側が予定している尋問の証言内容について、事前に弁護側に伝えることになった。

●次回は3カ月後の証人尋問

証人尋問を中心とする次回以降の公判期日は11月26日と12月11日に決まった。

閉廷後に記者会見した郷原弁護士は「一審で審議は十分に尽くされた。高裁でも慎重な審議を行いたいという姿勢は分からなくはないが、藤井市長の無実はまったく動く余地はない」と断言。検察が証拠申請した取り調べメモについても「本来は一審で出してくるべきもので、今さら出されてもそんなものが存在していたかどうかさえ怪しい。最終的に証拠採用されないのではないか」と検察側を批判した。

藤井市長は「こうなった以上は、どうしてこうした証言が出てきたのか、しっかりと審議していただきたい。それならば私の望むところでもあり、これからの審議を見守っていきたい」と冷静にコメント。裁判長から次回以降の公判への出廷を求められ、「市政におおむね影響はないが、私も職員も、心理的にひっかかるものはある。早く終わってほしい」と述べつつ、「できるだけ調整したい」と前向きな姿勢を示した。

早くも長期化の様相を見せている控訴審。はたして、それに見合う社会的教訓が引き出されるのか、争点とともに、その意義がぼやけて見えてしまう裁判だ。

(弁護士ドットコムニュース)

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