女子高生のスカートの中をのぞき込んだとして、埼玉県迷惑防止条例違反の罪で起訴された30代男性に8月中旬、さいたま地裁が無罪判決を言い渡した。
報道によると、男性は2012年7月、さいたま市のJR大宮駅で、大勢の人がいる前で四つん這いになって、女子高生のスカート内をのぞき込んでいたという。男性には知的障害があった。裁判官は「常識的な判断を欠いた突発的な行動」として、男性が心神喪失状態だった可能性を認め、無罪とした。
刑法には、「心神喪失者の行為は、罰しない」(刑法39条1項)と書いてあるが、この「心神喪失」とはどのような状態を指すのだろうか。そして、なぜ「無罪」とされるのだろうか。岩井羊一弁護士に聞いた。
●「心神喪失」とは何か?
「心神喪失とは、精神の病気や障害により、自分のやろうとしていることが悪いことだとは全くわからない、またはわかっていてもやめることが全くできない状態のことです。
典型的なのは、精神病の人が自分の妄想にしたがって、犯罪を犯してしまった場合です。
今回のケースでは、裁判官は、男性に常識的な判断ができない程度の知的障害があるとして、心神喪失を認めたのでしょう」
●無罪になる「理由」は?
それでは、明らかに犯罪行為をした場合でも、心神喪失ならば無罪になるのは、どうしてだろうか。
「刑罰とは本来、犯罪者に罰を与えて、『正しい行動を取るべきだった』と非難し、責任を取らせるものです。
ところが、心神喪失の人は常識的な判断ができないため、『正しい行動を取るべきだった』と非難することができません。したがって心神喪失の人には責任を取らせることができず、『無罪』と判断されるのです」
●必要なのは「治療」や「援助」
それでは、彼らに犯罪を繰り返させないためには、どうすればいいのだろうか。
「心神喪失の人にとって必要なのは、適切な治療を受けることや、その人が犯罪を犯さない状況を整えるための周りの援助と言えるでしょう」
そうした人に対しては、処罰ではなくて、治療や環境整備が必要ということだ。
岩井弁護士は「精神病や知的障害の方に対して、怖いというイメージを抱く人もいるようですが、犯罪行為をしない方も大勢おられます。精神病や知的障害の方に対する偏見をもたず、個別に考えていくことが望まれます」と話していた。