胸を圧迫するなどして相手の気を失わせる「失神ゲーム」の結果、暴行・傷害事件として検挙されるケースが後を絶たない。2月中旬には、新潟市に住む中学2年の男子生徒2人(いずれも14歳)が同級生に暴行を加えたとして、新潟県警に暴行容疑で逮捕されたと報じられた。
失神ゲームは「気絶遊び」などとも呼ばれていて、数十年前から、遊び感覚で子どもたちの間で行われてきたという。だが、脳が酸素不足になることによって、後遺症が残ったり、最悪の場合、死に至る危険がある。
友人同士で面白がってやってしまうケースもあるだろうが、こうした「失神ゲーム」は法的にどんな問題があるのだろうか。お互い了解した上でやっていたとしても、罪に問われる可能性があるのだろうか。刑事事件に詳しい藤本尚道弁護士に聞いた。
●無呼吸状態から酸欠になり、失神へ
「失神ゲームで気を失わせるメカニズムは、まず過呼吸状態にして脳に『酸素は足りている』と錯覚させることから始まります。その状態で、胸を圧迫するなどして呼吸を止めさせると、脳が酸素を求めないため無呼吸状態となってしまい、ついには酸欠となって失神に至ります」
法的にはどのような位置づけになるのか。
「刑法の基本から考えてみましょう。刑法上の『傷害』の意味は、人の生理的機能に障害を加えることだと考えられています。
失神は一過性の意識消失発作であり、生理的機能の障害ですから、わざと失神させてその状態がある程度継続した場合には、具体的にケガなどをさせなくとも、傷害罪が成立します。
ただ、30分程度で回復するような失神の場合は、傷害罪ではなく暴行罪が適用されるというのが判例です。いずれにせよ『遊びだった』では済まされません」
●「同意」の上でも犯罪になる可能性がある
友達同士で同意の上で行っていた場合は、どう考えればいいのか。
「たとえお互いに了解(同意)があった場合でも、暴行罪や傷害罪に問われるという結論はかわらないと考えます。
被害者の承諾があったとしても、承諾にもとづいて行われる行為は、社会生活上是認できる相当なものでなければならないというのが判例の考え方です。
また、その承諾は、判断能力のある者の真意に基づく必要があります。
失神ゲームにより無呼吸状態が長く続くと脳に損傷が起きて、運動や思考などの能力に重篤な障害が発生したり、死亡する可能性すらあります。
専門家も『当初は異変がなくても、徐々に障害が表れることもある』と指摘しているところです。
失神ゲームに同意したとしても、通常は、それが極めて危険な行為であることを十分に理解したうえで、真摯に同意したものとは考えにくいでしょう。
また、重篤な後遺症が起きる可能性がある危険な『失神ゲーム』は社会的相当性も認められないと考えられます。
したがって、失神ゲームが承諾のうえで行われていたとしても、違法性が阻却されることはなく、犯罪の成否には影響がないと考えられます。
ともかく、このような危険な『犯罪行為』が『ゲーム』などと称されて遊び半分で行われていることはとんでもないことだと知るべきでしょう」
藤本弁護士はこのように述べていた。