「中学2年の姪っ子が学校で先生に髪を切られました」。インターネットのまとめサイトに、こんな書き込みが投稿された。
投稿者によると、姪は以前から「髪が赤い」と教師に指摘されていたそうだ。ただし、姪は髪を赤く染めていたわけではない。屋外で部活動をしているため、髪が紫外線の影響を受けて日焼けしていると本人や親は考えている。だが、教師に注意されるので、そのたびに髪を黒く染めていた。
しかしある日、教師に髪をチェックされて「また染めるか?」と聞かれた際に、何度も髪を染めることに嫌気がさしていた姪は「髪を切ってくるから大丈夫」と答えた。すると、姪は呼び出され、担任の教師と家庭科の教師に「スキばさみ」で髪を切られてしまったのだという。
もし教師が生徒の意思を無視して、勝手に髪を切った場合、犯罪にあたるのだろうか。また、髪を切った教師に対して、損害賠償を請求することはできるだろうか。高島惇弁護士に聞いた。
●勝手に髪を切った先生に「損害賠償」を請求できる
「まず、他人の髪を勝手に切る行為ですが、学説上は傷害罪(刑法204条)か、暴行罪(刑法208条)かで争いがあります。ただ、明治45年の大審院判決によれば、暴行罪に該当すると判断されており、そのような理解が実務上は定着しています。
また、髪を黒く染めるよう何度も指導する行為は、『染めないと髪を切るぞ』などと告知した上で指導したという事情が存在する場合には、強要罪(刑法第223条)が成立する余地があるでしょう」
教師が勝手に生徒の髪を切った場合、損害賠償を請求できるのか?
「勝手に生徒の髪を切る行為について、不法行為に基づく損害賠償を請求することが可能です。
請求の相手方は、私立学校の場合は、教師本人や学校に対して直接、損害賠償を請求することになります。公立学校の場合は、学校を管理監督する各自治体(区や市など)を被告として、国家賠償法に基づく請求をするため、教師個人の法的責任を直接追及できるわけではありません。
もっとも、国家賠償法に基づく請求であっても通常、担任の教師を証人として尋問することになります。尋問の場において教師の問題行為を事実上明らかにすることは可能です」
●黒髪強要には「人権侵害」の問題も
高島弁護士は「頭髪を巡る問題は、近年の学校トラブルにおいて複数生じています」と最後に指摘した。
「一部の公立学校では、『髪の色が明るすぎる』などとして、地毛にもかかわらず無理矢理、黒髪に染めているといった報告があがっています。
黒髪を強要する行為自体、人権侵害の問題が生じていますし、染色のために生徒を押さえつけるといった行為は、体罰と評価する余地もあります。
学校内における秩序を考慮する必要はありますが、その一方で、生徒の多様性に十分配慮した教育を徹底することも重要ではないでしょうか」