他人に銀行口座のキャッシュカードを貸したとして、都内に住む30代の女性が犯罪収益移転防止法違反の疑いで逮捕された。口座は還付金詐欺の振込先として使われており、高齢者2人から約200万円が振り込まれていたという。
報道によると、女性は今年5月、LINEで知り合った男にキャッシュカードを郵送し、現金1万5000円を受け取った。取り調べに対し、「収入がなくてやってしまった」などと容疑を認めているという。
簡単に高額謝礼をもらえるため、口座を売ったり、貸したりして、逮捕される人が後を断たない。美味しい話の代償はどのくらいになるのだろうか。大村真司弁護士に聞いた。
●犯罪に利用されていれば、有無を言わさず凍結
還付金詐欺を含むいわゆる振り込め詐欺、あるいはヤミ金融といった組織的な犯罪では、しばしば他人名義の口座が使われます。かつては、架空名義の口座も多かったようですが、「本人確認法」の制定などで金融機関のチェックが厳しくなり、実在の誰かの口座が使われることがほとんどです。多くの場合、当の犯罪とはまったく関係のない人から買ったり、あるいはヤミ金融などが貸し付けた相手から脅し取ったりといった形で手に入れるようです。
他人名義の通帳やクレジットカードは、取得すること自体犯罪です。また、提供した側も、そのような事情を知っていた場合、犯罪に該当します。法定刑は1年以下の懲役、100万円以下の罰金です。
また、実務上よく見かけるのは、他人に渡す目的で新規に口座を作るケースです。そのような目的を隠して銀行に通帳等を交付させれば、詐欺罪に問われます。詐欺の場合、法定刑は10年以下の懲役ですから、さらに重い罪ということになります。
しかし、それ以上に大変なのが、銀行口座がまったく使えなくなってしまうリスクです。犯罪に使われた口座は「振り込め詐欺救済法」によって凍結することになっていますが、各金融機関は口座の名義人について、新規口座の開設を拒否したり、既にある口座を解約したりすることが多いのです。つまり、その後長期間、銀行口座を一切持てない状態で生活していかないとならない可能性があるということです。
銀行口座がなければ、たとえば給料の振り込みを受けることもできませんし、光熱費を自動引き落としにすることもできません。そのほかにも支障が出る場面は枚挙に暇がなく、日常生活には多大な問題が生じることになります。しかも、犯罪に利用されていれば、口座は有無を言わさず凍結されるため、口座の名義人が事情を知っていたかどうかは関係ありません。
ヤミ金融事件や振り込め詐欺の被害者の事件を担当していると、 知的障害があってそそのかされたり、借金は許してやるからなどと言われ、通帳を渡したりするケースがあります。被害者ではあるのですが、その後、口座が使えない生活を余儀なくされるのです。弁護士が交渉しても銀行は口座開設を拒否する場合も多いので、悩みの種の一つです。