子どもの頃の思い出のひとつに、通学路で吸ったツツジの蜜の甘さをあげる人もいるのではないだろうか。しかし東京都内在住の主婦、J子さん(30代)は最近、小学校低学年の息子がツツジの花に夢中になっていることを心配しているそうだ。
「最近、友達に教えてもらったようで、学校の帰り道に、学校近くの公園やビルで管理している花壇のツツジの花の蜜を吸っているそうです。本人は楽しんでいるのですが、人が管理しているものですし、毎日となれば、それなりの量になりそうです」という。
ある有名人が、ツツジの花の蜜を吸う子どもの様子をブログに投稿したところ、謝罪に追い込まれたこともあった。ツツジの花の蜜を吸うことは、器物損壊罪や窃盗罪などに問われる可能性はあるのだろうか。
尾崎博彦弁護士にたずねると、「お子さんについては法的にどうこうより、もっと別の心配があるでしょうし、刑事処罰の対象ではないと思いますが・・・」と断った上で、詳しい解説を聞くことができた。
●ツツジの花の蜜を吸うことに、法的な問題は?
「小学校低学年のお子さんは刑事処罰の対象年齢(14歳以上)ではありません。『器物損壊罪や窃盗罪などに問われる可能性はあるか』と言われても、『可能性はありません』というほかないです。
したがってここでは、行為のみを評価すべしという前提でコメントします。
花壇のツツジも他人が植栽して管理している以上は、他人のものです。『咲いている花を愛でて楽しむ』ところに価値もあるのですから、それを引き抜いたりした場合は、やはり器物損壊に該当すると考えざるを得ないでしょう。
また『花の蜜を吸うために引き抜いた』点をどう見るか。これは、他人のものを『自らが利用する(蜜を吸う)ために引き抜いた』と考えれば、窃盗罪の成立の可能性も否定できません」
●罪は成立するのか?
「一方で、これらの罪が成立しないという方向で考えることができるか検討してみましょう。
まず、器物損壊についてですが、『損壊(毀棄)とは財物の効用を喪失させる行為である』と言うのが通説・判例です。
ツツジの場合、花壇に『一体として多数咲いている』ものであって、少数の花弁を取り去っても、これらの花の『効用を喪失させる』とは言えない、という考え方ができるかもしれません。
では、窃盗はどうでしょうか。窃盗罪が成立するには、ある程度の財産的価値があるものを盗んだと言えなければならないという考え方があり、判例にもそれに沿うものがあります。
したがって程度問題とも言えますが、少数の花弁を、蜜を吸うために取り去ったことが『財物』を盗んだといえないと評価することも可能でしょう」
最後に、尾崎弁護士は次のように語った。
「結局、今回のご質問はたぶんに思考実験的なものであり、『器物損壊や窃盗に当たる場合もあるし、当たらない場合もある』という答えになってしまい、厳密な線引きは難しいと言わざるをません。
ただ、実際にこういった罪に問われるとすれば、社会通念上、花を傷つける行為が花壇全体から見ても明らかにその美観を傷つけており、花壇を楽しむことができないと認められるような程度の行為がなされた場合ではないかと思われます」