元プロ野球選手の清原和博さんが2月、覚せい剤取締法違反容疑で逮捕されたことは、世間に大きな衝撃を与えた。清原さんをめぐっては、複数の人物が身元引き受け人を名乗り出たと報じられるなど、かつてのスターの復活を望む人は少なくないようだ。
警察庁のデータによると、覚せい剤を所持していたなどとして検挙された人の数は、2013年は1万909人、2014年は1万958人と、全国で1万人以上にのぼる。ネット上には、「彼女が覚せい剤を使っていた」「患者の尿から覚せい剤の陽性反応が出た」など、身近な人や患者が覚せい剤使用者だったことを知ってしまったという話も投稿されている。
万が一、自分の身近な人や自分の患者が、覚せい剤を所持したり使用していると知った場合、警察に通報する義務はあるのだろうか。中村勉弁護士に聞いた。
●公務員の場合、通報義務が発生することも
「身近な人が覚せい剤を所持・使用していることを知った場合でも、法的には、必ずしも警察に通報する義務が発生するわけではありません。国民全員に犯罪の告発義務を負わせることは、いわば、ナチスドイツなどのような密告社会を生んでしまいかねず、自由主義国家の原理と相容れないからです」
中村弁護士はこのように述べる。
「しかし、公務員が仕事をしている中で、覚せい剤の所持や使用の事実を知った場合には、通報義務が発生する場合があります。
刑事訴訟法239条2項は、官吏・公吏(国家公務員または地方公務員)は、その職務を行うことにより犯罪があると思われるときは、告発をしなければならないと規定しています」
なぜ公務員には、通報義務があるのだろう。
「これは、犯罪の捜査について、警察などの各種行政機関がお互いに協力し合うことが期待されているため、公務員がその職務上知った犯罪について、通報義務を課したものと考えられます。
ただし、公務員であるからといって常に通報義務が発生するわけではありません。公務員が、職務とは無関係に、プライベートで家族や友人、恋人などの覚せい剤所持や使用の事実を知った場合には通報義務は発生しません」
検査や治療中に患者の薬物使用を知った医師にも、通報義務が発生する場合があるという。
「たとえば公立病院で働く医師は公務員ですから、治療や検査の過程で患者の覚せい剤使用の事実を知った場合には、通報義務が発生するといえます。
なお、覚せい剤とは別に、麻薬及び向精神薬取締法58条の2によれば、医師は、診察の結果、受診者が麻薬中毒者であると診断したときは、すみやかに都道府県知事に届け出なければならないとする規定があります。
そのため、公務員でない医師も、麻薬、大麻、あへん等の慢性中毒者を発見した場合は、都道府県知事への届出義務を負う点に注意が必要です」