アジア大会の会場でカメラを盗んだとして、韓国の裁判所から略式命令を受けた競泳元日本代表の冨田尚弥選手が12月4日、名古屋市内で記者会見を開き、正式裁判に臨むことを明らかにした。初公判は来年1月12日の予定で、冨田選手は自ら出廷し、「自分は盗んでいない。真実を語りたい」と無罪を訴える意向だという。(ジャーナリスト/関口威人)
●「初公判」は来年1月12日
記者会見に同席した代理人の國田武二郎弁護士によると、韓国の刑事訴訟法では、略式命令に異議がある場合は、命令の文書を受け取った日から7日以内に正式裁判を請求することができる。しかし、冨田選手が日本で文書を受け取るには、日韓の外務省を経るなど時間がかかる。そこで、神戸で活動する韓国人の外国法事務弁護士を通じて、仁川地裁に正式裁判を請求した。
仁川地裁は請求を受理し、当初は12月1日に初公判を開くと指定した。だが、この日程はあまりにも急すぎるとして、冨田選手側が延期を申請したところ、初公判は来年1月12日となった。
韓国での略式命令は、犯罪事実について、「冨田選手が2014年9月25日午前11時48分ごろ、パク・テファン水泳場の1階競泳ホールの写真記者団席に置いてあったカメラ1台、時価900万ウォン相当をこっそり盗み取った」などとしている。ただ、裁判所がどんな証拠をもとにしたのか不明のため、冨田選手側は証拠開示を求めているが、まだ認められていないという。
代理人の國田弁護士は記者会見で「来年1月までに証拠を検討するため、来週中には開示をしてほしい。開示された証拠しだいで、弁護方針などを決めたい」と語った。
●「冨田選手のことを信じて戦いたい」
会見には、外国法事務弁護士の黄文錫(ファン・ムンソク)氏も同席した。國田弁護士と同じく「証拠しだい」としつつも、「冨田選手のことを信じて戦いたい」と話した。また、「一般的には、略式起訴の事件が正式裁判になると、無罪の可能性がある。裁判は月に1回ほどのペースで開かれるが、どれぐらいの期間がかかるかは分からない」などと、今後の見通しを述べた。
冨田選手は11月6日の1回目の会見後、水泳の練習などはせず、愛知県内の実家で過ごしているという。激励の手紙や支援金が全国から届いており、「応援してくれた人のためにも、正式裁判をすることに決めた。『ありがとう』というメッセージを伝えたい」と話した。
一方、前回の冨田選手の会見の後、JOC(日本オリンピック委員会)は、韓国の警察から示された監視カメラの映像で、冨田選手がバッグにカメラを入れたところを確認している、と反論している。その点について、冨田選手は「僕の見た映像とは違うのではないか」と再反論した。ただ、JOC関係者と映像を見たときの状況や、なぜ言い分が食い違うのかについては「分からない」と答えた。