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2017年12月26日 11時09分

「白雪姫」を目覚めさせる王子さまの「キス」、準強制わいせつ罪にあたる?

「白雪姫」を目覚めさせる王子さまの「キス」、準強制わいせつ罪にあたる?
白雪姫は毒リンゴを食べて眠ってしまう(llhedgehogll / PIXTA)

王子さまがキスすると、眠っているお姫さまが目覚める――。そんな「白雪姫」の一場面について、ネット上で「準強制わいせつ罪にあたるのではないか」という議論が巻き起こった。きっかけは、大阪大学の牟田和恵教授(社会学・ジェンダー論)のツイートだ。

牟田教授は12月11日、「冷静に考えると、意識のない相手に性的行為をする準強制わいせつ罪です」「『そんなの夢が無い』との反応あるかと思いますが、逆にこんなおとぎ話が性暴力を許している、との認識に至っていただきたいものです」という持論を展開した。

さらに、「姫は王子様と幸せに暮らしたというエンディングなのだから、『キスに対する推定的同意がある』のだから問題ない』というリプありますが、そのように『結果オーライ』を捏造してどれだけ性暴力が見過ごされてきたか考えてみてください。レイプでも女性は結局は快感を得る、みたいな話と同じですよ」と述べている。

一連のつぶやきは、電車内で眠っている女性にキスした男性が、準強制わいせつ罪で逮捕されたというニュースを受けてのものだった。はたして、王子さまのキス行為は、現代日本の法律で考えると、準強制わいせつ罪にあたるのだろうか。刑事事件にくわしい松木俊明弁護士に聞いた。

●「白雪姫は意識不明だった」という設定で考えると・・・

「『被告人は、◯年◯月◯日午後◯時◯分頃、◯◯にある小人の森において、意識不明の白雪姫(当時◯歳)を認めると、にわかに劣情を催し、同女が毒りんごを食べて意識不明となり抗拒不能の状態にあることに乗じ、同女に対し、その口に接吻し、もって人の抗拒不能に乗じてわいせつな行為をしたものである』

白雪姫に登場する王子の刑事裁判がおこなわれるとすれば、このような公訴事実が検察官により読み上げられることになるでしょう。

なお、原作の『グリム童話』では、王子はキスをしていなくて、棺を運ぶ際の衝撃で毒りんごを吐き出して白雪姫は目を覚めています。ですが、ネットで話題になっている点について言及するために、ここでは現代で広く知られている『王子のキスによって、眠っている白雪姫は目を覚ました』設定を前提に解説します。

また、白雪姫がキスの時点で現実に死んでしまっていた場合、そもそも『準強制わいせつ罪』の成否は問題となりません。この点も、白雪姫は生きて意識不明状態であったという設定にします」

●「準強制わいせつ罪」が成立する

「さて、今回議論になっている『準強制わいせつ罪』(刑法第178条1項)の条文を見てみると、『人の心神喪失もしくは抗拒不能に乗じ、または心神を喪失させ、もしくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者』は、暴行または脅迫を用いて、わいせつな行為をした場合に成立する『強制わいせつ罪』(刑法第176条前段)と同じように処罰する、という規定になっています。

少し難しいですが、『抗拒不能』とは、心理的・物理的に抵抗ができない状態とされています。ですので、王子は、白雪姫の『抗拒不能』に乗じたという点は、否定できないと思います。

次に、『キス』という行為が『わいせつな行為』といえるかが問題になります。結論としては、『わいせつな行為』に該当します。現実の裁判でも、意識が朦朧(もうろう)となっている状態の女性にキスをしたケースにおいて、『準強制わいせつ罪』の成立を認めて有罪判決が下されている事例があります。

そうしますと、形式的には、意識不明という『抗拒不能』の状態に乗じて、キスというわいせつな行為をしているので、『準強制わいせつ罪』に該当するといえるでしょう」

●「推定的な同意」を与えていた、と考えるのは難しい

「ネットでの議論では、『ハッピーエンドであるので、<推定的同意>がある』や『愛し合う者とのキス』といったコメントも見られます。

しかし、おそらく前提とする事実関係の認識が異なっているのではないかと思います。というのも、グリム童話では、王子と白雪姫は毒りんご事件が起こる以前、お互いに面識はありませんでした。

そうだとすれば、白雪姫が面識のない異性からのキスについて、『推定的な同意』を与えていたと考えることは難しいでしょう。また、王子がキスをした時点で、白雪姫と王子との間に『愛し合う』という感情があったという認定も難しいと思われます。

さらに、『後ほど愛し合う関係になった』という事情は、検察官が王子を起訴するか否かの判断や、裁判所の量刑判断への影響はあるでしょうが、今回の事例における犯罪の成否に影響を与えるものではありません」

●最高裁判決(平成29年11月29日)に照らしても、「準強制わいせつ罪」は成立する

「ほかにも、王子が『性的な意図』を持っていなかった、つまり、いやらしい気持ちではなかったので、『準強制わいせつ罪』が成立しないとの意見も考えられます。

しかし、最高裁判所大法廷(平成29年11月29日判決)によれば、刑法第176条の強制わいせつ罪の成立について、性的な意図は必ずしも必要ではないとして、次のように判断しました。

『行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で、事案によっては、当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し、社会通念に照らし、その行為に性的な意味があるといえるか否かやその性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断せざるを得ない』

『キスをする行為』は、一般的に、目を覚まさせる医療行為などと認識はされていません。むしろ、性的な行為の一環であると、社会通念上、認識されているでしょう。これに、王子と白雪姫とは、面識がなかったことなどの事情を合わせて考えれば、仮に、王子において性的な意図がなかったとしても、最高裁の基準に照らしていえば、やはり『準強制わいせつ罪』は成立するものと考えられます」

(弁護士ドットコムニュース)

松木 俊明弁護士
刑事事件、企業法務、知的財産案件を中心に取り扱っている。弁護士業以外にも、ハーバード流交渉学の講師として大学での講義、企業研修講師を数多く担当している。最高裁判決事件(平成29年11月29日)を担当。
事務所URL:http://arcus-law.net/
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