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規制の対象外、銀行カードローンの貸付が激増…弁護士「ヤミ金が再び増加する恐れ」
銀行カードローンの問題に詳しい新里宏二弁護士

規制の対象外、銀行カードローンの貸付が激増…弁護士「ヤミ金が再び増加する恐れ」

銀行が無担保で貸し付けるカードローン。消費者金融などは貸金業法で年収の3分の1を超える貸し付けが制限されている(総量規制)が、対象外である銀行のカードローン貸付額は年々増加。2015年以降は消費者金融業者の2倍強にまで膨らんでいる。

そこで日弁連は2016年9月、銀行の貸し付けにも総量規制を求める「銀行などによる過剰貸付の防止を求める意見書」を公表。さらに2017年4月には会長声明を出し、改めて貸付額の制限を求めた。

このまま過剰な貸し付けが進めば、借金苦に陥る人が再び増加する可能性はないだろうか。多重債務関連の問題を議論する政府の「多重債務問題及び消費者向け金融等に関する懇談会」の委員で、銀行カードローンの問題に詳しい新里宏二弁護士に、銀行カードローンの現状と懸念点を聞いた。

●2010年施行の改正貸金業法で規制の対象に入らなかった

ーそもそもなぜ銀行のカードローンを利用する人が増えたのですか

2010年6月に、消費者金融からの借り入れを年収の3分の1までに制限する「総量規制」を盛り込んだ改正貸金業法が施行されました。改正までの議論の中で、銀行については「社会的責任があり、そこまで法規制をしなくても大丈夫だろう」と法規制の対象になりませんでした。まずは「一番トラブルの多かったところを」ということで、消費者金融に規制がかかったわけです。

そうすると銀行カードローンを利用する人がどんどん増えていきました。国内銀行の個人向け貸し出しにおいて、銀行のカードローン残高は2011年3月に初めて消費者金融会社の貸し付け金額を追い抜き、2016年には5兆1227億円と消費者金融会社の2倍以上に急増してきています。

ーー改正貸金業法によって、消費者金融会社の貸し付けにはかなり影響があったのですか

法改正の効果はかなり出ています。改正貸金業法には総量規制のほか、借りているお金の残高が年収の3分の1を超える場合は、新規の借り入れができなくなるといったことも定められました。その結果5件以上無担保無保証借り入れの残高がある人数、つまり多重債務者の数は、2007年3月末に171万人もいましたが、16年3月末には12万人まで減っています。また多重債務が原因とみられる自殺者数も07年に1973人いたのが、16年には667人にまで減少しています。

ただこれらの数字に銀行カードローンを利用している人というのは入っていません。なので正確なデータじゃないのではないかと思っています。個別に問題点を洗い出した方がいいということで、日弁連で16年6月〜7月に多重債務相談を担当した弁護士に対してアンケートを行いました。

●失業して無職の男性に380万円を貸し付け

ーーアンケートでは、どういった結果が出たのでしょうか

貸金業者と銀行の合計借入額が年収の3分の1を超えていたという回答は、約6割の95件(全153件)ありました。具体的な借入状況としては、

・当時無収入で、既に貸金業社から177万円を借りていた50代男性に、銀行が300万円の無担保ローンを貸し付け

・当時年収が356万円の40代女性に、銀行が433万円を貸し付け(自己破産)

・当時年収が160万円の60代男性に、銀行が226万円を貸し付け

・当時無収入(失業して無職)の40代男性に、銀行が380万円を貸し付け

といったケースです。総量規制もなければ、自社で50万円以上・他社も含めて100万円以上を借り入れする際に消費者金融が義務付けている年収証明書の提出も全くないままで、借り入れがなされています。

ーー銀行にとっても、カードローンはいいビジネスとなっているのでは

日銀のマイナス金利などで有力な貸付先が見つからない中で、カードローンの金利は年十数%にも上ります。銀行がカードローンで貸したお金について、多くは信用保証会社に回収業務を委託していますが、その実態は消費者金融業者です。このため、貸し倒れのリスクは負わずに必ず回収が可能です。銀行の取り分は半分程度だろうと言われていて、どんどん力を入れています。銀行側も「最大500万円、所得証明書一切不要」、「専業主婦の方でもOK」などと、総量規制の対象外であることをPRしています。

ーー全国銀行協会が6月12日に発表した大手銀行や地銀へのアンケート調査では、年収に対してどれだけ貸し出すかの基準を「厳格化した」と回答したのは全121行中の7%(8行)のみで、60%が検討中だといいます

昨今の経済的な情勢で、こんなにぼろ儲けの商売はない。だからこそ本当に自主規制が可能なのだろうかと思っています。これは多重債務者の増加につながる消費者問題です。全国銀行協会が3月16日に、消費者向け貸付けに関する申し合わせを発表しましたが、「個人の年収に対する借入額の比率を意識した代弁率のコントロールを行う」などと非常に抽象的な内容でした。貸金業法と同じような規制を行うという銀行は数行出てきたけれども、それが目立つようではダメなんですよね。みんながやらないと。

自分たちの首を絞めかねないということで、業界団体としても規制できないのではないでしょうか。なので金融庁の監督指針に「総量規制」を入れてください、そしてそれでも難しい場合は法規制をしてくださいと申し上げています。

ーー銀行カードローンによる影響は今後も出てくるのでしょうか

現に、底を打っていた自己破産の件数が2016年の2月から前年比を上回り、17年3月時点で103.1%とプラスに転じ続けてす。どうも歯止めがかかっていない。私はこれも銀行カードローンが一番の原因ではないかと考えています。

こうなってくると、過去に社会問題となっていたヤミ金が再び跋扈し、多重債務問題が再び再燃する可能性があります。貸金業法改正前と同じようなことが起こりかねません。銀行がどれだけ変わることができるのかにかかっています。儲けの確保よりも人の命をどう考えるのか。銀行カードローンの問題は日本社会がどうしていくかの岐路にあると考えています。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

新里 宏二
新里 宏二(にいさと こうじ)弁護士 新里・鈴木法律事務所
1952年岩手県盛岡市生まれ。中央大学法学部卒業、1983年仙台弁護士会登録、多重債務問題等に取組み、2010年度仙台弁護士会会長、翌年度日弁連副会長、震災対策に取組み、現在ブラック企業対策全国弁護団副代表等。

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