
弁護士を身近な存在に感じてほしい〜個人顧問契約で依頼者の心のよりどころに
「人生に関わる仕事がしたい」
ーー弁護士を目指したきっかけや理由を教えてください。
人間の本質や生き方に関心があり、昔から映画や小説などでさまざまな人生を疑似体験することが好きでした。高校生の頃に人の人生に関わる仕事がしたいと思うようになり、弁護士か精神科の医師の仕事に興味を持つようになりました。文系科目が得意だったことから、法学部に進み、弁護士を目指しました。
ーー学生時代や司法試験受験の思い出についてお聞かせください。
大学では映画鑑賞サークルに入り、サークル仲間と映画の感想や議論を交わすという毎日でした。司法試験の勉強を本格的に始めたのは大学を卒業してからです。予備校の講義テープなどを使いながら仲間と一緒に勉強しました。
ロースクールがない時代で、試験問題も公表されず、採点基準もわからず何が求められているのかもわからない手探り状態で勉強しなければならい時代だったため、仲間と一緒に勉強していなかったら、合格はできなかったと思います。
司法試験は頭のいい人でも必ずしも受かるとは限らなくて、例えるなら、F1カーのように高性能な車でも間違った方向に進んだらゴールできず、軽自動車でも正しい方角に向いて進むことができればゴールできる。そんな印象を持ちました。
実際に法曹の仕事は、決まった問題にあらかじめ用意しておいた決まった答えを出すことでは対処できないものなので、試験の仕組み自体がそのような訓練になっていたようにも思います。
個人の顧問契約
ーー注力している分野は何ですか。
医療事故や交通事故、学校事故等の各種事故の被害者側の代理人としての活動が多く、また、法人だけでなく、個人の顧問契約にも注力しています。
事件や事故被害というのは、人が普通に暮らしていて思いもかけず突然降りかかってくるもので、ときに亡くなったり重い後遺障害を残したりといった深刻な事態を招き、人生が一変してしまいます。
加害者に対する怒りや障害を抱えての今後の人生を思うと、被害を気持ちの中で整理して受け入れることもままなりません。
思いもよらない事態に対して、どう対処したら良いのかもわからず、右往左往するのがむしろ当然です。しかし、それだけに解決のために必要な手続きやありうる成り行き等がわからず、不安や心細さでどうしようもなくなりがちです。
このような事故被害で苦しまれている方は、まさに暗闇の中で孤独にもがいているような状態にありますので、光の射す方に向かえるよう力になる弁護士が必要です。
実際には、すぐに解決にたどり着ける事案ばかりではなく時間がかかる案件も少なくありませんが、依頼者の方と一緒に被害回復に向けて歩みを進め、実際に解決に至って依頼者の方の笑顔を見ることができたときの喜びは何ものにも変えがたいものです。
とくに医療事故は、ほかの種類の事故に比べ過失や因果関係を明らかにすることが難しく、法的な責任を問うことが難しい種類の事故です。
交通事故と医療事故は、道路で起こるか病院で起こるかの違いがあるだけですが、信号待ちをしていて追突されたら加害者に責任があることがはっきりしているし証拠も揃っているのに対して、病院での事故は、そもそも病気や怪我の悪化なのか診療上の問題が原因なのかわからないないのがむしろ普通なだけに、そもそも果たして病院や医師のせいなのかどうかすらわからず悶々とすることになります。
また、その過失によって当該後遺障害等の損害が発生したと言えるのかという相当因果関係は医学的に評価する必要があり極めて困難です。
医学文献を調べたり、当該診療科の専門医に協力を求めて意見を聴取したりと、被害者の方個人では解決に向けて進むことがとても難しい種類の事故で、弁護士が関わらないと被害の回復が困難な分野なだけに、やりがいを感じます。
ーー個人顧問契約はどのようなものですか?
法人等企業の顧問契約は、弁護士の顧問契約の形態として一般的で、企業間の契約書のチェックや作成、従業員の雇用面の問題や顧客や取引先とのトラブル等、当事務所でも顧問先に活用していただいております。
これに対して、個人の顧問契約は、まだ一般的とは言えず、普通の方が顧問弁護士を持っているというケースは稀かもしれません。
個人の顧問契約は、事故や相続や離婚や不貞等の法的な問題が発生した場合に備えて保険感覚で結ばれることも多いかもしれませんが、企業と違って、個人の人生で弁護士が関わるべき法的問題はそう頻繁には起こらないのが普通なので、せっかく個人顧問契約を結んでも、あまり活用できずに終わるということが実際のところ少なくないと思います。
最近、いろいろな分野でサブスクリプションサービスが増えていますが、お金を払っているだけでほとんど使わないのははっきり言ってもったいないです。個人顧問契約に関しても、掛け捨て保険のような万が一のときの備えとしてではなく、日頃から役に立つものとして使ってもらえるサービスにしたいと考えています。
そこで、当事務所の個人顧問契約では、法的問題という限定を取り払って、なんでも相談したり、その方が課題を解決する際に、自分以外のもう一人別の人間の頭を使って、自分と一緒に作戦を考えるための参謀役として活用してもらえるような内容にすることにしました。
最初にお話しした通り、私は、精神科医に興味を持ったように、人の心や人生の本質を知りたいという欲求があり、人の心や人生に関心があります。
とはいえ、うつ病等の心の問題については、もちろん精神科や心療内科での専門的な治療によって解消されるべきものなので、医学の素人の弁護士が関与すべきではありません。
それでも、弁護士が力になることのできる人生上の諸問題は決して少なくないはずですし、薬物治療が治療法の中でも大きな比重を占める精神科医療によるよりも、カウンセリング的な関与によって解決するのがふさわしい問題も少なからずあると思っています。
個人が抱える悩みの中には、人に話すだけで、ひとりでに解決策が思い浮かんだり、それほど考え込むほどの問題ではないと気づいて解決するものもあります。多くの人は友人や家族に相談することで悩みに対処されていることでしょう。
もっとも、悩みによっては、恥ずかしくて友人に打ち明けにくかったり、かえって心配をかけてしまいそうで家族に相談することができずに一人で抱え込んで長い間悶々としてしまうということも少なくありません。
弁護士は守秘義務がありますし、刑事事件では犯罪に関する弁護も行う立場なので、相談者からすれば知人や家族にはとうてい打ち明けられないような秘密でも、弁護士が相手なら安心して打ち明けて相談することができます。
また、弁護士は人の話を聞く仕事ですし、トラブル解決に関わる仕事ですから、法律問題に限らず、人生全般の問題について一緒に考え、悩み、解決のお手伝いをする上では最適な経験を積んでいるといえるといえます。
ですので、個人顧問契約の内容としては、とくに法律問題に相談内容を制限しないということをお伝えして、積極的に人生相談窓口として活用していただきたいという点を共通認識にしています。
実際に個人で顧問契約をされている方からの相談内容はさまざまで、たとえば専業主婦の方が抱える家庭内の不満をお聞きしたりと新聞の人生相談のようなものもありますし、学生の方の勉強法や進路についての悩みや社会人の方の上司との関係性や転職に向けての活動の計画など、継続的にその方の生き方に関わっていくいわゆるコーチング的な相談内容もあります。当然、その方に離婚や相続といった法的問題が生じた場合には、法律相談を行うことになりますし、単発事件として依頼してもらう必要がある場合には、通常よりも格安の顧問価格で受任することになります。
また、一つの試みとして「人生バンク」というものを始めました。月に1〜2回事務所に来てもらって、日常の悩みや将来計画などを自由に話してもらい、その模様を動画で記録しています。いわゆるライフログです。人と会話している場面を動画で残す機会はあまりないと思うので、そうした記録を残していくことで、人生の財産にしてもらいたいと考えています。
ーー弁護士として活動してきた中で印象的だったエピソードを教えてください。
守秘義務があるので具体的な事案の内容はお話できませんが、複数の弁護士に相談したが勝ち目がないという理由で断られたという相談者の依頼を受けて、裁判で結果を出せたという経験をいくつかしています。
たとえば、相続問題で遺産分割協議書に判をついてしまっていたら、大抵の場合は覆すことが難しいです。しかし、じっくり話を聞いてみると打開策が見つかることもあります。相手方もあることですし、裁判であれば裁判官がいます。人間である以上、いろいろな価値観がありますから、絶対はありえないと思っています。
そういう事案をいくつか経験して、決めつけはよくないと学びましたので、想定される筋を十分説明してもなお依頼者の方がどうしてもこの方針でいきたいというときに、弁護士の常識的観点で自主規制するようなことはしないようにしたいと考えています。
ーー趣味や休日の過ごし方を教えてください。
趣味は映画鑑賞や読書です。あとはお風呂が好きです。スーパー銭湯やサウナ、温泉など、家族で行くこともありますし、一人で行くこともあります。平日にできなかった仕事を休日に持ち込むことも多いのですが、休みが取れるときは子どもと遊んで過ごしています。
ーー今後の展望についてお聞かせください。
いざというときに頼れるだけでなく、町医者のようにいつでも頼れる存在でいたいと思っています。とくに会社経営者や一家の大黒柱となる人など、立場的に誰かに相談したり弱みを見せることができない人たち、相談相手に恵まれず一人で悩み苦しんでいる方のより所になりたいと考えています。
個人で顧問契約をしていただいている方の中に、戦時中や戦後に壮絶な体験をした話をしてくれる方もいらっしゃるのですが、そういう得難い体験を後進に伝える場がまだまだ乏しいことを非常に残念に思います。経済的な遺産だけでなく、精神的な遺産を後世に伝えることも大事ではないでしょうか。
また、弁護士は離婚や借金、事件事故など、人生が行き詰まるような局面に関わる仕事なので、そうしたトラブルから教訓を引き出すことができる立ち位置にあると思います。
これまでも書籍やインターネット上の相談サイトや知恵袋のような媒体で、先人の経験を学ぶことは可能でしたが、どうしても人間は自分が痛い目に遭わない段階で先人の知恵を学ぶことは困難です。
個人顧問の場を用いて、その方が現に問題に直面している場面で、過去に同じ問題を乗り越えられた方の経験とそこから得られた教訓をお伝えして生かしていくことができればと考えています。
また、仲違いしたままの友人や家族との仲直りや老親に伝えることのできなかった感謝を伝えたりという紛争化していない問題に関する和解であるとか、傷つけてしまった人への謝罪等、人生の中で未清算のままになっている問題の解決に関わるようなことができればとも考えています。
ーートラブルを抱えていて、悩んでいる方へのメッセージをお願いします。
弁護士に相談するまではさんざん悩み苦しんでいたのに、いざ相談してみたら相談だけで簡単に解決したり、解決のために進むべき方向性がはっきりして、こんなことならもっと早く相談すればよかったという感想をよく聞きます。
以前は、弁護士は敷居が高くて相談しづらかったかもしれませんが、最近は比較的弁護士にアクセスしやすい環境が整ってきたと思いますし、当事務所のように個人顧問契約を設けている事務所もあります。
弁護士との相性も重要なので、なにか問題が起こってからではなく、普段から相談できるような弁護士を持っておくということが大事だと思います。
問題が発生したときにお役に立つことはもちろんですが、問題が生じないように平時からお役に立てるのも弁護士だと思いますので、ぜひ活用してください。