NHK受信料をめぐる裁判で、最高裁(鬼丸かおる裁判長)は9月上旬、「滞納されたNHK受信料は5年で時効」という判断を初めて示した。
NHKは、受信料を支払わない人に対して民事訴訟を起こし、受信料を支払うよう求めている。今回の裁判では、どれだけ前の期間までさかのぼって、支払いを求められるのかが争点となっていた。
民法では、他人にお金を請求する権利(債権)は、一定期間使わなければ「時効」となって、消滅するというルールがある。NHKは今回、「受信料は10年前までさかのぼって請求可能だ」と主張したが、認められなかった。
今回、最高裁はどういう理由で、このような判決をくだしたのだろうか。また今回の判決は、NHK受信料をめぐる裁判に、どのような影響を与える可能性があるだろうか。山内憲之弁護士に聞いた。
●「時効5年は当然の判断」
「一定期間以上、取り立てをしなければ、取り立てる権利自体がなくなるというのが、『債権の時効』というルールの意味です。完全に忘れた頃になって、突然、『金を返せ』と言われても困りますよね」
山内弁護士はこのように切り出した。今回の裁判で問題となっていたのは、どれぐらいの時間が経てば、時効が成立するかだ。
「ふつうの債権は、原則10年で『時効』になり、消滅します(民法167条1項)。
一方で、もっと早く消滅する債権もあります。たとえば、毎月支払う家賃のように、1年以下の期限ごとに支払う債権は、「定期給付債権」といって、時効が5年となっています(同169条)。
これは、月々の支払いが遅れているような場合は、早めに請求しないと権利自体がなくなりますよ、という趣旨です」
すると、NHKの受信料は?
「NHK受信料は『2カ月ごと』に支払うから『定期給付債権』にあたる。したがって、時効は5年だと、今回の最高裁判決は言っています。これは当然といってよい判断です」
●裁判提起のタイミングが早くなるかも
今回の最高裁判決は、NHK受信料をめぐる他の裁判に影響を与えるだろうか。
「今回の判決を受けて、NHKは、5年より前の受信料請求を放棄せざるをえなくなるでしょう。
また、NHKは受信料を支払っていない人に対する裁判を、時効になる前の、早いタイミングで起こすようになると考えられます。裁判を起こせば、時効はストップするからです」
山内弁護士はこのように影響を予測したうえで、次のように話していた。
「ところで、債権は、時間が経過したら自動的に消滅するわけではありません。債権は時効だと相手が『主張』したときにはじめて、裁判所はその債権を時効と扱うことができる。そういうルールがあるからです(民法145条)。
一部の金融業者は、時効にかかった債権で裁判を起こしてくることがあります。そして、このルールを知らないために、10年も20年も前の債務を支払うよう、裁判所に命じられる人がたまにいます。
NHKはさすがにそんな手は使ってこないとは思いますが、万が一、時効を迎えた債権について裁判を起こされた読者がいたら、この点に気をつけてください」